
※動画版は1万回再生越え!ありがとうございます、サムネ画像はだいゆい氏提供です。
クロワデュノールの概要
父:キタサンブラック
母:ライジングクロス
主な勝ち鞍:東京スポーツ杯2歳ステークス、ホープフルステークス
2025年クラシックは間違いなくこの馬を中心に回るだろう。
この馬の強さはディープインパクトに通じる自在性の高さ。
普通の馬は、大跳び・ピッチは生来のもので、変えることはできない。
一方で、普通でないディープインパクトやオルフェーヴルといった稀代の名馬は、コースに合わせて走り方を変えることができた。
(ぜひこの2頭のダービーと有馬記念を見比べてみてほしい。)
わかりやすく言えば、小回り競馬場や坂ではピッチ走法で加速しながら走り抜け、大きな競馬場や長い直線では雄大に伸びる。
クロワデュノールは父と同じ首の高いフォームで、東スポ杯とホープフルSでその片鱗を見せてくれた。
これを可能にするのが、祖父の血統、すなわちブラックタイド・・・いや、ディープインパクトの再生産である。
血統の完成度・発現のブレ
ディープインパクトの孫が弱いと言われて久しい。
その理由は、ディープインパクトが完成されすぎていたからと見ている。
例えるならば、ディープインパクト=完璧な調和の取れたカレーに、トンカツやエビフライをトッピングしたり、醤油やソースで味変していたのがディープ産駒。
子供の代までは味変やトッピングで美味しく食べられたが、あくまで「ディープの味変」であり、父を超える(肩を並べる)馬は出なかった。
(懐古厨の老害の自覚はあるが、ディープの現役時代を見たものとしてはあの衝撃に匹敵する産駒はいなかった)
それが孫世代になると、「味変した後の調和の崩れたカレー」となり、ソースカレーに醤油を入れても喧嘩してしまう。
次の調理に非常に苦労している。印象を受けている。
では、ブラックタイド ‐ キタサンブラックのラインはどうかというと、イクイノックスを出したあとも、芝ダート問わずに日本トップクラスの馬を出し続けている。

もともとブラックタイド自身が、ディープインパクトと全兄弟ながら全く違うタイプで、大型でタフネスさを売りにしていた。
その子であるキタサンブラックも大型先行馬であり、そもそも遺伝する能力の方向性が、ディープインパクト違ったのだ。
ディープインパクトとブラックタイド
血統論を語るうえで「全兄弟なのにぜんぜん違う馬が出るじゃないか」との批判がよくある。
血統とは特性の方向性を定めるものであり、当然ながら方向性の中でのブレはでてくる。
大きくブレる馬では、芝のスプリンターからステイヤー、ダート王者まで出したキングカメハメハがいた。

これは各所にバランスよく様々な血がブレンドされているからで、母の情報を増幅して出すのに長けた種牡馬であった。
全兄弟からでも、増幅されるポイントが異なれば別のタイプが出るのは当然である。
日本競馬の象徴のような母から、ドゥラメンテやレイデオロ
硬質でパワーが勝る母から、チュウワウィザード
スピードと柔軟性を極めた母から、ロードカナロア などなど
逆に、方向性のブレが極端に少ない馬は血統情報よりも、自身の形質を強く伝える。
例えば、ゴールドシップ(芝長距離)やヘニーヒューズ・サウスヴィグラス(ダート短距離)がいる。
どちらが良いという話ではないが、こういった前提を理解していないと血統と遺伝は考えるのが難しくなってしまう。
すなわち、ディープとタイドは同じ血統でありながら、「伝える形質は異なる」という前提に立たないといけない。
ディープ=サーアイヴァー タイド=ハーヘア
話を戻そう。
非常に洗礼され、サンデーサイレンスと欧州のキレを最大限増幅したのがディープインパクトであった。
血統的に一言でいうと、母父母父サーアイヴァーの馬であった。
一方で、ブラックタイドは、本来のウインドインハーヘアの特徴を強く出していた。
そもそもがディープインパクトこそ異端であり、ブラックタイドが本来あるべき姿であった。
簡単にかいつまんで説明をしよう。

・母ウインドインハーヘアは、古くからイギリスに続く王室御用達の血統である。スタミナだ。
・母父バステッドはブランドフォード系ステイヤー。スタミナだ。
・祖母ハイクレアはハイペリオン2×3。スタミナだ。
・コートマーシャルのインブリードを持つ。スタミナだ。
そこにハイペリオンの濃い母を持つサンデーサイレンスを組み合わせたのが、ブラックタイドである。スタミナだ。
全体を俯瞰すると、これでもかという欧州的なスタミナを併せ持つ血統であり、そもそもが先行ジリ脚粘り込みという印象を持つ。
…と、望田シショーも仰っている。
ブラックタイドこそウインドインハーヘアかもしれないのだ – 血は水よりも濃し 望田潤の競馬blogディープインパクトとブラックタイドの全弟ということで、デビュー前から注目を集めたオンファイア3戦1勝で引退して種牡馬入りしblog.goo.ne.jp
こう見ると、やはりディープインパクトだけが例外であった。
カレーで言うなら、材料は同じながらも
硬い肉を柔らかくなるまで煮込んだのがブラックタイド。
硬い肉を煮込み、肉の旨味出汁だけを抽出したのがディープインパクト
と考えればわかりやすい。
では、やや粗暴に見えるブラックタイドと、その形質を受け継いだキタサンブラックが、なぜ名馬を出せるのか?
それこそがディープインパクトの再生産である。
ディープインパクトの再生産
ディープインパクトらしさとは
非常に紆余曲折したが、ここもまだ前段だ。
ブラックタイドとディープインパクトの違いは前述の通り。
しかし、日本で活躍させるならブラックタイドよりディープインパクトの形質なのは火を見るより明らかである。
ディープインパクトらしさとは、即ちアルザオ(サーアイヴァー)らしさ。

アルザオは競走馬としては1.5流、種牡馬としても悪くはないが…という評価であった。
しかし、ディープインパクトの機動力とキレはすべてアルザオで説明できる。
父はスピード&スタミナ(粘り)
母はキレと機動力
特に父リファールはダンジグ、母父サーアイヴァーは、ヘイロー・レッドゴッド・トムフール・ニジンスキー・ストームキャットと血統的相似性があり、ニックスを生む。
上記の馬たちの並びに見覚えはないだろうか…?
そう、ディープインパクトの二ックス馬たちである。
完璧に調和された個体であるディープインパクトに上記の馬たちをかけ合わせると、数え切れない活躍馬を出した。
しかし、孫世代の評判は良くない。
仮説として、
・産駒は活躍するが、ディープらしさが強調されすぎてしまう
または
・二ックス馬に上書きされてしまい、孫にディープらしさが伝わらない
とのように、調和が崩れてしまうのが今の状態にあると、私は思っている。
1年前に「キズナ産駒にはサーアイヴァー」と書いたのは記憶に新しい。
コレも結局、ストームキャットのパワフルさに引きずられたキズナに、最もディープらしさを持つ血統のサーアイヴァーを重ねることで、「ディープインパクトの孫を、ディープインパクトらしく揺れ戻させる」という結論である。
では、「ディープインパクトらしくないブラックタイド」ではどうだろう?
先程の「ディープの二ックス馬」を基準にして、キタサンブラック産駒牡馬の血統を見てみよう。
*おさらい
✓サーアイヴァー的血統馬
ヘイロー・レッドゴッド・トムフール・ニジンスキー・ストームキャット
✓リファール的血統馬
ダンジグ
イクイノックス ヘイロー・リファール・サーアイヴァー

ソールオリエンス トムフール・レッドゴッド・ニジンスキー・ダンジグ
ウィルソンテソーロ ダンジグ・トムフール
ガイアフォース ヘイロー・ニジンスキー・トムフール
ジャスティンスカイ リファール・ニジンスキー・レッドゴッド
いずれもサーアイヴァー的、またはディープインパクトの二ックス的馬が並ぶ。
つまり
- ディープインパクト(サーアイヴァー)らしさの薄いブラックタイドに
- ディープインパクトらしさを注入し
- ディープインパクトを再生産している。
ブラックタイドの頑強で雄大な馬体特性に、ディープインパクト的なキレや機動力を注入することが1つの解答である。
もちろん、この理屈はとても単純化したものであり、血統マニアの方からはツッコミもあるだろうが、単純化させていただいたのでご容赦願いたい。
また、キタサンブラックの明確な二ックスとしてバステッドいじりというものがあるが…
これは難易度が跳ね上がるので、各自調べられたし。
欧州的な底力が増し、イクイノックスにも完備されている。
クロワデュノールの配合考察
と、ここまでの3000文字が前段。
ここからが本題。
ウインドインハーヘア系とスピード血統
キタサンブラックの配合に目線を移していく。
基本的には、雄大な馬体で長距離を走った父に対し、スピードのある母を組み合わせるのがベター。
イクイノックスも母父スプリントG1馬のキングヘイローだし、アンクルモー・クロフネ・ダイワメジャー・ジャイアンツコーズウェイなどスピードを持った母父での好成績が目を引く。

それらに加え、前段の「ディープらしさの再生産」「バステッドいじり」に注目して見に行こう。

これを見ただけの正直な感想は「この構成でクロワが出るの?」であった。
母父ケープクロスは日本ではあまり馴染みがないが、ウィジャボードやシーザスターズと言った欧州の年度代表馬クラスを出した大種牡馬である。
欧州ダンジグ系であり、母父アホヌーラと合わせて非凡なスピードを持っている(が、孫世代はなぜかステイヤー化が著しく、父系は急速に萎みつつある)。
前述のニックスでは、父父グリーンデザートがダンジグとサーアイヴァーを持つため、アルザオと似た血統構成。

ノーザンダンサー・サーアイヴァー・フェアトライアル・米国血統の牝系が共通
ディープらしい血統を多く持つグリーンデザートは相性が良い。
クロワデュノールと同じく母父父に同馬を持つ3歳以上は3頭いるが、全て勝ち上がっている。
ダンジグの非凡なスピード、フェアトライアルのスタミナ&機動力、サーアイヴァーのキレを併せ持つのは、まさにキタサンブラックとニックスであろう。
また母母父ノミネーションも欧州スプリント重賞馬であり、スピード要素の強い牝系と言える。
先程も書いたが、基本的にディープインパクト=ブラックタイドは足が速いわけではない。
更に、足の速さは最も遺伝しづらい要素と言っても過言ではない。
ディープインパクトはステイヤーとしては外れ値的に足が速かったが、それでも産駒の短距離G1はグランアレグリアのみであった。
またそのグランアレグリアも本質はマイラーで、短距離を先行するスピード能力は持っていなかった。
中距離を走る場合でも、基礎的なスピード能力は必要であり、母系から補充していきたい。
そもそもキタサンブラックも母父は純然たるスプリンターのサクラバクシンオー。
この系統にスピード能力の注入は必須である。
まとめると
- 母系のスピード能力
- サーアイヴァーによるディープの再生産
- 二ックス血統で能力の底上げ
つまり、具材は違うがイクイノックスと同じ調理方法で仕上げたものであった。
血統の隙間もイクイノックスと同じく広い。
やや完成に時間がかかりそうで、おそらく今はセンスだけで走っていると思われる。
完成すればイクイノックスと同様、中距離帯で圧倒的な自在性を獲得する予想がされる。
一方で、純然なスピード能力やキレはイクイノックスに一歩譲るのではないか。
今後の成績予想
三冠 全てとってもおかしくない。
- 機動力が必要な皐月賞
- スピードが必要なダービー
- スタミナが必要な菊花賞
いずれも今日説明した中で答えを出せる。
どの分野の能力も、ゆうに及第点を超えているため、能力次第では三冠馬に成ってもおかしくない。
ただし、現代日本競馬の基本となる早熟性は、やや見劣りする。
また、特化血統が立ちはだかる可能性もある。
例えば皐月賞で個人的に注目しているのがピコチャンブラック。
母が皐月賞馬アンライバルドの全妹で、バレークイーン系×ロジユニヴァースは非常に強力な機動力と持久力を見せる。
血統から見た期待値だけなら皐月賞出走予定馬の中では郡を抜いているので、クロワデュノールがそれを上回る器の大きさを見せるのか、さらなる第三勢力になるのか、非常に楽しみである。

M石土井
ゴルシ産駒研究者
一口馬主を京都サラブレッド、YGG、広尾、DMM、ノルマンディーなどで楽しんでいる、ゴルシ産駒研究者。noteにてゴルシ産駒にまつわる投稿を行っている。血統分析に重きを置くスタイルで、代表出資馬はドライスタウトやグランベルナデット。ゴールドシップ産駒ではオルノアやブルーローズシップなどに出資している。
No responses yet