今回は種牡馬分析記事、デクラレーションオブウォー産駒について取り上げてみます、よろしくお願いします。
はじめに
実は全く書くつもりがなかったのですが
「アメリカンペイトリオットとデクラレーションオブウォーの違いって何?」
と聞かれ、検討したのがきっかけです。
本当は、サトノダイヤモンド記事を書こうとして、念のためアンケートをとったらデクラが人気で・・・
という流れです。
今回はそこまで深掘りしているわけではないので「そう言う説もあるのかー」くらいの感じで読んでいただけたらと思います。
過去にデクラレーションオブウォー産駒に血統構成が近いアメリカンペイトリオットについては分析した記事を掲載していますので、気になる方はぜひこちらもご覧ください。
デクラレーションオブウォーを分析
デクラレーションオブウォー(以下デクラ)がアメリカンペイトリオット(以下アメペイ)と大きく違うのは、やはり牝系。
アメペイはスピードを全面に押し出した構成でしたが、デクラは日本を意識したかのような血統構成になっています。
血統
母父ラーイ(Rahy)は、超世界的良血。
この一族の、特に日本への影響力は凄まじく、軽く書いただけでこんな感じ。
グロリアスソング(ラーイの母)
・’80年欧州最優秀古馬牝馬
・シュヴァルグランの3代母
・産駒にはラーイの他にも
シングスピール(種牡馬・ジャパンカップ勝ち)
グランドオペラ(種牡馬・メイセイオペラなどの父)
シャンソネット(繁殖牝馬・ダノンシャンティの母)など
デヴィルズバッグ(ラーイの叔父、グロリアスソングの全兄弟)
・’83年欧州最優秀2歳牡馬
・産駒にタイキシャトル(日本最強短距離馬の1頭)、孫にロージズインメイ(ドバイワールドカップ)など
アンジェリックソング(ラーイの叔母、グロリアスソングの全姉妹)
・産駒にレディバラード(交流重賞2勝、ダノンバラードの母)、ロードアリエス(京都新聞杯2着)など
・孫にグラッツィア(川崎記念3着)、スーパームーン(AJCC2着)など
まだまだいますが、特に有名な馬を列挙するだけで記事が1つ書けてしまうレベルの超絶血統です。
しかも、ここに書いてあるのはほとんどが日本で影響力を及ぼしている馬たちであることがわかると思います。
なぜ日本でここまでの影響力を与えているかと言うと、最大の要因はグロリアスソングの血統にあります。
詳しく書きすぎると終わらなくなるので簡単に言うと、グロリアスソングとは
”ヘイロー×マームードの絶対成功パターン”であるということ。
ヘイロー×マームードでいちばん有名な馬といえばサンデーサイレンス。
この構成はスピードとしなやかさをひたすらに昇華する配合になっており、すなわち日本的な適性を最大限発揮するものになります。
某有名血統評論家の方も「グロリアスソングは女サンデー」と仰っていました。
その女サンデーに、ヘイローと酷似した血統を持つレッドゴッド(Red God)を配合したのがラーイなので、日本向きにならないはずがありません。
赤 ロイヤルチャージャーとナスルーラが血統酷似
青 ファラモンドが同じ
緑 サーギャラハッドとブルドッグが全兄弟
茶 マームードとムムタズべグムが父同一で母が母娘
このように、ヘイローとレッドゴッドは非常によく似た構成をしているため、血統表に両馬がある場合「ヘイロー≒レッドゴッド」と記すことがあります。(≒はほとんど等しい)
主にヘイロー的なしなやかさとスピードの強化になりますが、レッドゴッドが機動力・持続力に優れた馬であったため、完成形のイメージはディープインパクトよりテイエムオペラオーやマヤノトップガン(母父がレッドゴッド系)に近いかもしれません。
それに加え、母母父ゴーンウエストはミスプロ×セクレタリアトという柔らかくスピードのある配合。
日本の主流種牡馬とは、どんな組み合わせでも一定の効果を発揮する馬です。
最近ではドウデュース、タイトルホルダーなどの血統表で存在感を放っています。
その奥の血統を見ても、日本競馬を裏から支えるニジンスキーに、最近日本で再興しつつあるハイペリオンと、日本適性をひたすらに上げた牝系であることがわかります。
全体を俯瞰してみると、主導になりそうに見えるのは前述のラーイ的(ヘイロー≒レッドゴッド)と共に、ミスプロ×ニジンスキーのルビアノ(Rubiano)≒テンポ(Tempo)的なニュアンスもあります。
スピード偏重すぎるルビアノを阻害せずにテンポの欧州スタミナ血統がちょうどいい塩梅になっていそうです。
デクラの牝系が大好きな馬が多かったので長くなりすぎました。
配合検討
現時点での獲得賞金トップテンです。
- デュードヴァン
- トップナイフ
- ジャスパージャック
- タマモブラックタイ
- ハウゼ
- セットアップ
- サトノヴィレ
- ドクタードリトル
- モズエロイコ
- ノボリクレバ
アメペイに比べると、絶対的な配合相手というのはあまりないようです。
これはデクラの牝系が非常に日本的で万能だからですね。
ブラッシンググルームを刺激すれば多彩な戦い方で牡馬三冠戦線を盛り上げているトップナイフ
また、母父タピットではルビアノ≒タップユアヒールズ(母が同じで父と祖父が同一)のアメリカ的なスピードを強化することで、デュードヴァンなど、ダートマイル帯での活躍が期待できます。
あとは、やはりと言うべきかヘイローの刺激ですね。
デクラ内にヘイロー≒レッドゴッドを持つため、サンデーサイレンス持ちの牝馬と組み合わせることで簡単にヘイローの日本的インブリードを発生することができます。
獲得賞金上位の10頭中5頭がサンデーサイレンス経由のヘイローのインブリードを持っており、サンデーが飽和した日本競馬会にすっぽり収まる種牡馬だと思います。
あともう1点気になったのは、ミスプロ持ちが多いですね。
万能種牡馬の片鱗は見せていますが、日本競馬では少しスピードを足してやったほうが成功度は高そうです。
まとめ
芝ダート兼用で、配合によっては距離もこなし、日本の主流血統にマッチしやすい種牡馬といった印象。
配合面ではレッドゴッド(ブラッシンググルーム)を刺激して芝馬に、ミスプロやタピットを配合してダート馬に、多様な配合ができる点は生産者からしても使いやすい種牡馬だと思います。
ただ懸念点としては、やはりウォーフロント系ということで一本調子の子が多い印象があります。
日本の芝で勝負するとなるとキレの増幅は絶対条件になるため、日本で突き抜けた子を出すには少し時間と工夫が必要になってくると思います。
であれば、母父ロードカナロアやディープインパクトなどの日本適性最上位のしなやか系種牡馬が破壊力が高い可能性があります。
母父ディープといえば、先日の紫苑S3着に入ったシランケドなど、なかなかおもしろい産駒が多いですね。
余談
最後にもう1つだけ…
実はデクラの血統の更新がかなり遅く、一般的な馬と比べて1~2世代古いです。
父母の生年月日を見てもらいたいのですが、例えば同じダンジグ系(ダンチヒ)のハービンジャーと並べてみます。
デクラのほうがダンジグの位置が1世代近く、母父もほぼ同じ年代出身です。
この血の更新の遅さについて悪く言う人も多いですが、個人的には気にしていません。
理由はいくつかありますが、わかりやすく簡潔に言うと
「影響度の強い血統はできるだけ近くに・明確にいて欲しい」
と思うからです。
例えば母父ラーイは散々書いたように、素晴らしい血統を持っています。
しかし、これが世代が進むことにより血統表の奥に入っていけば行くほど影響力は下がっていきます。
父ディープより、父父ディープの方がなんとなく弱そう(というと怒られそうですが…)という感覚がほぼ同じだと思います。
その薄まった影響力を補って余りあるだけの種牡馬が配合されてきていればいいですが、殆どの場合は薄まっていくことが多いため
「影響力のある血統は近くに・明確にいて欲しい」
となるわけです。
デクラに話を戻すと、父ウォーフロントは日本向きではありません。
どこまで行っても一本調子のダート馬かスプリンターを出すのが精一杯でしょう。
しかし、すぐ近くにラーイ・ゴーンウエスト・ニジンスキーという影響力つよつよで芝中長距離適性と瞬発力を強化する血統が並ぶことで、同じ父ウォーフロントのアメペイよりも多様で上級な産駒を出せていると考えています。
M石土井
ゴルシ産駒研究者
一口馬主を京都サラブレッド、YGG、広尾、DMM、ノルマンディーなどで楽しんでいる、ゴルシ産駒研究者。noteにてゴルシ産駒にまつわる投稿を行っている。血統分析に重きを置くスタイルで、代表出資馬はドライスタウトやグランベルナデット。ゴールドシップ産駒ではオルノアやブルーローズシップなどに出資している。
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