今回は天皇賞・秋を制しジャパンカップにも出走するドウデュースの血統分析記事です、動画版も公開してますのでそちらも併せてご覧ください。
サムネはだいゆいさん提供です、ありがとうございます。
血統から馬の成績を予想するのが血統マニアの仕事。
しかし、ドウデュースはそんな血統派を嘲笑うような成績を残した。
血統分解
父ハーツクライは、伝説の名馬ディープインパクトを唯一倒した日本馬。
4歳春まではよくいる善戦マン。ダービー2着の実績はありながら、最後方から追い込むが勝ちきれない競馬が続いていた。
転機があったのは4歳冬。ルメール騎手に乗り代わる頃に、馬体が完成。
これまでの後ろ一辺倒の走りから先行抜け出しに脚質転向し、ディープインパクトを抑え込み有馬記念優勝というジャイアントキリングを成し遂げた。
その後もドバイシーマクラシックでの逃げ切り圧勝や、当時の世界最強馬が集まったKG6&QESで僅差の3着でフロックでないことを証明した。
この戦績はハーツクライ産駒にも受け継がれており、若駒の時はトモが頼りなく勝ちきれないが、馬体が完成した5歳や6歳になって最強馬になる産駒が多い。
代表的な例としてリスグラシューとジャスタウェイがいる。
リスグラシュー
ジャスタウェイ
配合論
配合はパズルである。
ハーツクライ
長所
馬体が完成したら爆発的に伸びる
欠点
完成するまで時間がかかる
このような特性を持っているのであれば、長所を伸ばすか欠点を潰すのがわかりやすい方向性となる。
この晩成と成長力はハーツクライの母父トニービンから来ている。
そのため、配合の際に一番際立った影響力を持つトニービンを刺激することが二ックス探しの一歩目である。
先ほど例に上げたリスグラシューとジャスタウェイは、ともにトニービンの血統的特徴であるナスペリオン(ナスルーラとハイペリオンを併せ持つ)を刺激する血統構成であり、真正面からハーツクライの利点を伸ばす、がっぷり四つした配合であった。
では、逆のアプローチではどうか?
欠点を補い、長所を伸ばす
ハーツクライの欠点とは、トモの成長をまたないといけないところ。
実際にハーツクライ産駒の募集時動画を見ると、非常にトモが緩く、いかにも時間がかかりそうな産駒が多い。
欠点を補うのであれば、成長の早い馬や、トモの強い馬を配合すれば良い。
それがサリオスやスワーヴリチャード、そしてドウデュースである。
サリオスの血統的特徴
母サロミナは独オークス馬(3歳女王)。早熟性とトモの発達を促すデインヒルを持つ。
スワーヴリチャードの血統的特徴
母母キャリアコネクションは2歳重賞を2勝。
BCジュヴェナイルフィリーズ(2歳女王決定戦)で2着。
いずれの馬も2歳重賞で勝ち負けし、特にサリオスは2歳王者にまで駆け上がった。
母方の血統から早熟性と、(2歳戦はほとんどがスプリント~マイル戦なので)スピードを受け継げばハーツクライでも早くから活躍することができるということである。
ドウデュースの血統構成
これらを見た上でドウデュースの血統を見ていこう。
母父Vindicationは、2歳時 4戦4勝 BCジュヴェナイル(2歳王者決定戦)で勝利。
母母父Gone Westは、米国要素も強いが母母がイギリスのスタミナ血統をしており、芝ダート兼用の万能種牡馬。
母母父Lyphardは欧州血統で、イクイノックスやリスグラシューの力の源となった日本向きの良血。
これらを合わせてシンプルに考えると
・母父 …早熟性と短距離適性
・母母父 …スピードとスタミナ(粘り強さ)
・母母母父…芝適性と先行力
血統からの想定
▶2歳から走れるマイラーで、ちょうどサリオスとスワーヴリチャードの中間のような馬。キレよりハイペースの先行粘り込みを得意として、小回りのほうが得意。
しかし、実際は違った。
ドウデュースの成績
2歳 朝日杯FS 1600m 阪神
3歳 ダービー 2400m 東京
4歳 有馬記念 2500m 中山
5歳 天皇賞・秋 2000m 東京
東京で強い馬、阪神で強い馬はいるが、どちらでも活躍し、世代を超えて勝ち続けられるのは驚異的の一言。
またドウデュースは一歩の歩幅が狭いピッチ走法である。
ピッチ走法は小回りや短距離が得意であるし、体型的にも胴の短い短距離体型である。
「なのに」、有馬記念(2500m)やダービー・天皇賞秋(東京競馬場)といった、本来向かない適性もねじ伏せた驚異的な名馬ということがわかるだろう。
また、ピッチ走法は疲れやすく、持久力は低い。
「なのに」天皇賞・秋では、ラスト3ハロンのラップ10.94 – 10.56 -10.98という抜群のキレと持続力を見せた。
血統的に見ても、母方の馬もここまでピッチ走法の馬はおらず、一体あの特異的な性能はどこからきたのか…
全くわからない。
本来両立しない、短と長、ピッチと持久力を兼ね備えた規格外な馬。
それがドウデュースであった。
ダンシングブレーヴとの関係
そうは言っても、血統考察記事としてある程度の道筋は建てないといけない。
そこで注目したのがダンシングブレーヴ。
欧州最強馬論争では80年代を象徴する馬であり、オールタイムベストでも最強の支持が多い。
英ダービーではどう考えても届かない後方からぶっ飛んできて、40mの高低差・2000m走った後に1ハロン10.3の鬼脚を見せた。(なお2着)
凱旋門賞でもラスト1ハロン10.8を記録。
実はこのダンシングブレーヴとドウデュースは近親である。
ドウデュースの3代母Darling Dameとダンシングブレーヴは、母父だけが違う3/4同血。
ちなみにダンシングブレーヴの母父ドローンはキレを強化する血統。
Darling Dameの母父はパワーとスタミナに優れる血統。
ダービーや天皇賞で見せた異次元の末脚はこのリファール×Olmecの血統に由来する・・・・・・・・・・・・・んじゃぁないかなぁ(逃げ腰)
まとめ
ドウデュースは規格外な馬。
・早熟性と成長力を両立した
・マイラー体形なのに中長距離を走った
・マイルから2500mまで対応した
・東京・中山・阪神を両立した
・それらを超ピッチ走法で達成した
何から何まで規格外の馬であった。
望田潤氏の格言に「だからの名馬」「なのにの名馬」という言葉がある。
「ディープインパクト産駒〝だから〟ダービーで強い」
「サクラバクシンオー産駒〝だから〟短距離で強い」
一方で、ドウデュースのように規格外の馬が現れる。
「だから」の馬を凌駕する、「なのに」の名馬…
つまり
「ハーツクライ産駒〝なのに〟〇〇で強い」
「マイラー体形〝なのに〟〇〇で強い」
〝なのに〟を体現し続けたドウデュースは、規格外としか言えない。
そんなドウデュースの走りが見られるのも、ジャパンカップと有馬記念のあと2走。
規格外過ぎた名馬の勇姿を見届けましょう。
M石土井
ゴルシ産駒研究者
一口馬主を京都サラブレッド、YGG、広尾、DMM、ノルマンディーなどで楽しんでいる、ゴルシ産駒研究者。noteにてゴルシ産駒にまつわる投稿を行っている。血統分析に重きを置くスタイルで、代表出資馬はドライスタウトやグランベルナデット。ゴールドシップ産駒ではオルノアやブルーローズシップなどに出資している。
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