※サムネ画像はChabata k氏撮影 CC 表示 4.0
はじめに

日本最強のダート馬といえば、
- 衝撃度はペリー来航級 クロフネ
- 勲章の数が強さの証 コパノリッキー
- 中東に散った1等星 ホクトベガ
- 走りは全然ポップじゃない レモンポップ
- やる気ある?ない?やっぱある? ウシュバテソーロ
いずれも甲乙つけがたく、競馬ファンの数だけNo.1ダート馬がいた。
しかし、フォーエバーヤング以降はそんな論争も吹き止んだ。
日本ではGⅠ級3勝を含む、5戦5勝
海外ではサウジカップでロマンチックウォリアーをねじ伏せ優勝。
BCクラシック、ドバイWC、ケンタッキーダービーでも3着に入っており、名実ともに世界トップクラスにして、最も海外で結果を出した日本ダート馬に成った。
では、なぜフォーエバーヤングがディープインパクト系にしてダート王者に成り得たのかを血統的アプローチで分解していく。
ディープインパクトとダート
そもそもディープインパクト産駒は、ダートで走らない。
星の数ほどいるディープ産駒のG1馬の中で、ダートG1は1勝しかしていない。母父ストームキャットやアンブライドルズソングなど米国系の血統を多く配合されておきながら、ダート馬が全くいないのだ。
下級条件に目を移しても、芝2,466勝に対し、ダート260勝。
10倍近い差が開いている。
理由としては、ディープインパクトは欧州血統であり、ステイヤー。
米国血統を入れてようやく日本的な馬になるくらい偏った馬であった。
ダート馬をよく出す印象のキズナでも 芝472勝:ダート278勝と約1.7倍 芝が優位。
例えば、この後出てくるキングカメハメハは芝1,165勝:ダート985勝であり、ほぼ1:1であることを考えると、やはりディープインパクト系はダートが厳しいのである。
そんな中でフォーエバーヤングの父リアルスティールを見てみよう。
ディープインパクト系ながら、芝114勝:ダート79勝と、かなりダートで健闘している。
それは何故か?
ミエスクに主眼をおいて分解していきたい。
*数字はいずれも2025年5月9日現在
女傑ミエスク
フォーエバーヤングを語る上で決して避けて通れない馬がいる。
それが、ミエスク。

16戦12勝で、マイルに限れば11戦9勝 連対率100%。
イギリスとフランスの1000ギニー(日本の桜花賞に相当)を勝ち、秋には古馬混合マイルG1も連勝。その勢いのままアメリカ ブリーダーズカップマイルを制した。
間違いなく当時の世界最強マイル馬で、GⅠ10勝の輝かしい成績を残し、繁殖入りした。
そんなミエスクが生んだ初子がキングマンボ。
キングマンボ

キングマンボは、フランスのマイル王決定戦 ムーンランドロンシャンを母子制覇した名馬。
日本適性の非常に高い欧州馬で、現代日本にも多大なる影響を与え続けている。
キングマンボ産駒(日本実績のみ)
エルコンドルパサー ジャパンカップ・NHKマイルC
アルカセット ジャパンカップ
キングカメハメハ ダービー・NHKマイルC
孫)エイシンフラッシュ ダービー・天皇賞秋
孫)レモンポップ フェブラリーS など
上記の馬たちに共通するのが東京競馬場での圧倒的な強さ。
エイシンフラッシュこそ気性やドイツの爆発力でとてつもないキレ馬であったが、他の馬に共通するのが先行持続型。
3~4番手で追走し、上がり34.3秒(2位)みたいな持続する末脚で後続を封じ込む戦法は、まさにミエスク的であった。
*血統マニアには常識だけど興味ない人には難しすぎる話
ミエスクは父のナスルーラ、母のプリンスキロ&カウントスリートという日本向きの軽さとキレの血統を持っている。
そしてその軽さ・キレを持続させるハイインロー(ハイペリオン&サンインロー)を備えた日本的な鉄板配合。
更に先行力を裏付けるパワーをナシュア≒ナンタラのパワー系ナスルーラで補完。
そこに、キレ的なナスルーラ(ナンタラ)&カウントフリートを持ったミスタープロスペクターを配合し生まれたのがキングマンボ。
つまり、軽さとキレとパワーと持続力に優れたミエスクを、更にキレよく発展させたのがキングマンボ。
広く、速く、直線の長い東京競馬場で輝く血統。
一方で、馬体はミエスクの特長である”リボー肩”をよく伝える。
リボー(Ribot)は14戦14勝凱旋門賞連覇の歴史的大名馬。
立った肩(前脚の肩の角度が浅く、捌きが硬いがパワーを伝える)での力強いかきこみが特長。
ミエスクも非常に力強いかきこみを武器に欧州の深い芝で強烈な末脚を見せた馬であった。
つまり…?

例えば、キングカメハメハは芝馬も出したがダート王者も出した。
なにが言いたいかというと、キングマンボ系は芝ダートどちらにも対応できる馬であり、そのキングマンボの全妹が、リアルスティールの母母であるのだ。
その中でも、特にフォーエバーヤングの中には
ミスタープロスペクター(ナシュア≒ナンタラ、エイトサーティ)
→パワーを強調
グロウスターク&ラトロワンヌ
→立ち肩を遺伝し、力強いカキコミを強調
セクレタリアト(APインディ)
→芝的な軽さとダート的なスタミナを強調
これが、父父以外の3/4に散りばめられている。
ディープインパクトの配合論はこちらの動画で話した通り、「ディープインパクトらしさを揺り戻す」配合が良いと言った。
一方でフォーエバーヤングは、ディープインパクトらしさをイジっていない。
(正確にはセクレタリアトはディープ的ではあるが、)ミエスクの中のダート的要素を刺激しまくって、3/4でミエスクのパワーを増幅し、1/4のディープで緊張した血統を緩和させる。
つまり、ディープインパクトを緩衝材に使用した配合であった。
まとめ
結果的にフォーエバーヤングは、ミエスクを強化し続けた配合であり、血統的に煮詰まったところをディープインパクトで緩和した馬であった。
そのためディープインパクト系らしさというよりミエスク的な馬であり、私もこの記事を書く前に「エバヤンって確かキンカメ系だったよな」と思ってしまったほど。
・リボー&ラトロワンヌの影響で前脚のカキコミが強く、
・前脚のカキコミが強いからダートで強く、
・ナスキロフリートだから大箱競馬場でキレて、
・サンインローでスタミナ勝負にも強い。
別馬なので細かく解説はしないが、例えばキンカメ系ダート馬のチュウワウィザードも同じアプローチである。

フォーエバーヤングは、ディープインパクト系でありながら、ミエスク的な馬であった。
ディープインパクトはあくまでアクセントであり、本質的にはパワー型マイラー。
ただし、米国系のようなカチカチマッチョではなく、欧州風味のパワータイプなので、日本的なダートでも米国的なダートでも活躍できた。
リアルスティール論
最後に補足的な話になるが、リアルスティールは非常に日本的な血統であり、芝で溜めてキレる能力も高い。
しかしその一方、リボー肩の影響で前脚の捌きが硬い。
そのため、更に前脚を強化するリボー的な血統(立ち肩パワー型)をいれるとダート感が増してくる。
例えばダートで活躍している馬を見ると
- カナルビーグル(ユニコーンS)はリボー系最強パワーのトムロルフ6×6。
- チカッパ(JBCスプリント2着)の母はリボー6×6。
- フェブランシェ(南関東重賞馬)はラトロワンヌ系のStriking=Busher5・5×6・6。
- ビダーヤ(ダートOP馬)はラトロワンヌの鬼プレイメイト持ち。
更に全馬がミスプロを持っており、ミエスクのパワーを刺激している。
一方で芝の重賞馬を見てみると
レーベンスティール
母父トウカイテイオー。テーオーステップと言われるほどの柔らかさを持った馬。
オールパルフェ
日本の芝適性が高いキングマンボの全兄弟クロス。日本芝の大御所サンデー・トニービン持ち。
このように、活躍馬の中でも芝ダートでアプローチが違う。
リアルスティールは、もともとはキングマンボ的な馬で芝適性が高いため、フォーエバーヤング的なダート的血統構成でも、芝で勝ててしまう馬が多い。
しかし、もしかしたら、次のダートの怪物は今芝でくすぶっている条件馬なのかもしれない。

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エムイシ氏も血統アドバイザーとして参加しているオンラインコミュニティがあります。
オーストラリアのNSW州の中條大輝調教師とジェイを中心に、馬の見方についてや 競馬について勉強していく会員制コミュニティ「JJ Racing Club」をDMMオンラインサロンさんにて運営中です。
これまで3度サロンメンバーの皆様とセリに参加しており、モアナとターボ、さらに大狩部牧場さんとコラボでSunCity産駒の牝馬という素晴らしい3頭落札できました。
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M石土井
ゴルシ産駒研究者
一口馬主を京都サラブレッド、YGG、広尾、DMM、ノルマンディーなどで楽しんでいる、ゴルシ産駒研究者。noteにてゴルシ産駒にまつわる投稿を行っている。血統分析に重きを置くスタイルで、代表出資馬はドライスタウトやグランベルナデット。ゴールドシップ産駒ではオルノアやブルーローズシップなどに出資している。
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