今回はスルーセブンシーズが4着に入った凱旋門賞2023を振り返って行きたいと思います。
よろしくお願いします。
近年まれにみる高速馬場
今年の凱旋門賞を端的に表すなら、高速馬場適性があり欧州の中でもスピード能力が高い馬が活躍するレースだったと言えると思います。
2023年10月1日のパリロンシャン競馬場は、他の2歳G1レースでレコード決着になるなど、稍重馬場ではありましたが時計が出やすい馬場状態でした。
そのため、今年の凱旋門賞の予想ではライブ配信でもお伝えした通り、とにかく持ち時計が早い馬や過去に重馬場で凡走していても高速馬場で好走歴がある馬をピックアップするスタイルで臨みましたし、結果は本当にその通りになりました。
掲示板内の5頭は皆、高速馬場適性を感じる馬たちですし、血統面にもその要素が散りばめられていましたよね。
15頭の出走馬のうち13番人気と人気薄ながら3着に突っ込んだオネストはまさに、1年前のパリ大賞での持ち時計がよく、時計勝負になったときに浮上する穴馬の1頭だったと思います。
結果的に勝ち時計はエースインパクトの2分25秒50と近年まれにみる早い時計でした。
参考までに過去10年(2016年〜17年はシャティン競馬場開催)の勝ち時計を振り返ってみましょう。
2022年 10月2日 | イギリス | アルピニスタ | 牝5 | L.モリス | M.プレスコット | 2:35:71 |
2021年 10月3日 | ドイツ | トルカータータッソ | 牡4 | R.ピーチュレク | M.ヴァイス | 2:37:62 |
2020年 10月4日 | フランス | ソットサス | 牡4 | C.デムーロ | JC.ルジェ | 2:39:30 |
2019年 10月6日 | フランス | ヴァルトガイスト | 牡5 | P.ブドー | A.ファーブル | 2:31:97 |
2018年 10月7日 | イギリス | エネイブル | 牝4 | L.デットーリ | J.ゴスデン | 2:29:24 |
2017年 10月1日 | イギリス | エネイブル | 牝3 | L.デットーリ | J.ゴスデン | 2:28:69 |
2016年 10月2日 | アイルランド | ファウンド | 牝4 | R.ムーア | A.オブライエン | 2:23:61 |
2015年 10月4日 | イギリス | ゴールデンホーン | 牡3 | L.デットーリ | J.ゴスデン | 2:27:23 |
2014年 10月5日 | フランス | トレヴ | 牝4 | T.ジャルネ | C.ヘッドマーレック | 2:26:05 |
2013年 10月6日 | フランス | トレヴ | 牝3 | T.ジャルネ | C.ヘッドマーレック | 2:32:04 |
2012年 10月7日 | フランス | ソレミア | 牝4 | O.ペリエ | C.ラフォンパリアス | 2:37:68 |
2014年のトレヴよりも早いタイムですね。
2016年~17年はパリロンシャン競馬場の改修工事のためシャティン競馬場での代替開催になっていたため、それを例外視してみるとその時計の早さはより際立って見えると思います。
この表には記載されていませんが2023年の勝ち馬エースインパクトの上がり3ハロンは11.35-10.67-11.03と、パリロンシャン競馬場としてはものすごいラップを刻んでいます。
ここ数年は激しい雨により重~不良馬場での開催となり、道悪適性を強く求められるレースになっていて時計はかなりかかっていましたが、その様相とはずいぶん異なるレースが2023年の凱旋門賞と言えるでしょう。
これまでオルフェーヴルやナカヤマフェスタなど、日本馬が好走したときの馬場は重馬場だったので、日本馬は重馬場勝負になったほうが良いのではないか?という意見もありましたが、今年のスルーセブンシーズの好走は「高速馬場は日本馬の得意分野だ」と言わんばかりの走りでしたね。
やはり、高速馬場で末脚の決め手比べになるようなレースの方が今の日本馬には特に向いているのではないかと私は感じました。
スルーセブンシーズ4着。本当に立派な成績だと思います。
勝ち馬との着差も0.4秒ほどと大きく離されていませんし、クラブの規定により来年の挑戦は現実的にはあり得ないと思いますが、来年この馬場で再チャレンジできたらひょっとするかも?と期待させるものはありましたよね。
近年道悪での凱旋門賞で好走が続いていて、今年も一定の人気を集めたドイツ馬たちは総崩れとなる結果。
やはり凱旋門賞は馬場状態によって求められる適性が大きく変わる舞台ということが今年のレースで再確認できました。
好走馬を振り返る
ここからは好走馬を1頭ずつ取り上げながら、振り返っていきたいと思います。
レースを見ていた時から感じていましたが例年前残りの印象が強く、後ろからのズドン差しはあまり決まらないのが凱旋門賞なのですが、今年は前目につけた馬が厳しい展開で、後ろからの差しが優勢な結果でしたね。
重い馬場になった近年で馬場ダメージがあり、オープンストレッチが大きな効果を発揮した例年に対し、今年は馬場状態がよく内外でそこまで馬場状態の差がなく外差しが決まりやすかったという部分もあったのかもしれません。
1着エースインパクト
父父フランケル、5代血統表内にDanzig3本とスピード血統の本馬が、舞台適性や距離延長を不安視する声をあざ笑うかのような完勝でした。
事前記事や配信でもお伝えしていた通り仏ダービー馬で特に強い勝ち方をしている馬は凱旋門賞でも好走することが多いですね。
スタート直後は13番手とスルーセブンシーズとともに最後方のポジショニング。
正直後ろ過ぎるかな?と思っていましたが残り800mあたりからスパートを開始し一気に先行している馬たちを差し切りました。
この末脚はまさにフランスダービーでのパフォーマンスを再び見せられているようで、凱旋門賞でも馬場状態によってはこういう勝ち方ができるんだなと感じた次第です。
勝ち時計も非常に優秀でスピード能力に優れているため、次走ブリーダーズカップに出走するのであれば、人気になるでしょうが当然本命視されるべき1頭だと思います。
ただ、もし万が一ジャパンカップにコマを進めてくる場合は要注意です。
あくまでもパリロンシャンでの高速性能が高いという話であり、日本の東京2400mでそのパフォーマンスが発揮できるか?と言われるとそこはどうなのかと思ってしまう部分もあります。ここは状態面なども見極めながら冷静な検討が必要だと思います。
2着ウエストオーバー
フランケル産駒とこちらも血統的にスピード能力の高い父を持つ馬です。
ウエストオーバーは本当にどの競馬場でも好走しますし、今年の凱旋門賞の道中10番手以下と後ろに控えた差し馬たちが掲示板内を確保した馬では唯一5番手あたりの前目につけて競馬をしたので、着順以上にこの馬は強い競馬をしていたと私は思います。
上がり3Fも11.49-10.9-11.31と非常にいい脚を使っていて、先行しながらこの終いでまとめて勝てなければもう相手が悪かったとしか言いようがないですね。
3着オネスト
パリ大賞での時計がよかったことなどから穴馬で推奨していた13番人気オネストが3着に入りました。
この馬も父フランケルとスピード能力を供給しつつ、母父については事前にXでツイートもしましたが凱旋門賞血統といわれるシーザスターズ(アーバンシー血統)ということでこの日の凱旋門賞への適性は血統的にバッチリだったということでしょう。
この馬も道中は14-15番手と最後方からの競馬でしたが、3着に入っています。
例年の凱旋門賞ではちょっとありえない位置だと思います。
近走敗戦が続いていたものの、パリロンシャン競馬場の時計勝負では十分この馬も一線級の馬たちと渡り合えるということでしょう。
逆にタフで時計のかかる英国レースなどでは今後もどうか?という視点を持っておくといいかもしれませんね。
4着スルーセブンシーズ
母系が米国系なのが気になっていましたがやはりステイゴールドの血は偉大でした。
ポジションがかなり後ろだったので道中心配していましたが直線は進路を探してルメール騎手が内に切り込み、伸びるスペースを確保すると鋭く伸びて4着入線。
一口馬主的な部分でいうと遠征費はほぼトントンくらいの賞金が入るのではないかと思います。
ただ、そんなことよりも久しぶりに日本馬が凱旋門という大舞台で好走できたというところは非常に喜ばしいことだと思いますね。
脚を高く上げる走法など、適性もあったと思いますがもちろん適性だけではなくこれだけのパフォーマンスができるスルーセブンシーズという馬の強さ、実力は間違いなくあると思います。
やはりイクイノックスに迫った宝塚記念はフロックではなかったということですね。
また、こういった決め手勝負で時計が早い馬場の方が日本馬はいいのでしょうが、馬場状態を見越して出走可否を決めるということが日本という地理的条件ではできないので、ここは今後も大きなネックになってくると思います。
これだけ馬場状態によって表情を変えるレースというのも珍しいのではないかと思います。
特に、この時期のフランスは本来気候的に雨が多いので、馬場が悪くなる可能性も高いですからね。
5着コンティニュアス
日本生産馬のハーツクライ産駒であるこの馬が5着に来ています。
やはり今年は日本馬(この馬は日本調教馬ではないけど)が活躍できる条件だったのだろうなと感じました。
母系が欧州系でガリレオという重厚さもありますが、父はハーツクライと日本のスピード豊かな血統です。
日本でのハーツクライ産駒の牡馬は母系米国系の馬が多いのですが、やはりそのあたりは日本と欧州の違いなのでしょうかね?
欧州で調教されて欧州で出走している馬なので、走法的な部分が日本馬とはおそらく違うのでしょうが、日本血統の強さを世界に示している1頭ではないかと思います。
次走も楽しみですが、ジャパンカップなど日本に照準を合わせてくる場合、あくまでも海外で調教され海外仕様になっている馬であることに比べ、母父ガリレオと日本的には重めの母系を持っていることも考慮の上で馬券取捨を考えるべきだと思います。
最適な舞台は今回のようなヨーロッパの良〜稍重の高速馬場だと思います。
まとめ
今年は日本競馬界や日本の競馬ファンにとって、久しぶりに凱旋門賞の後に明るい雰囲気で議論ができる年になったなと感じています。
毎年予想をして同時視聴ライブをしている身としてはこれだけ馬場状態によって求められる適性が変わるということを再度自覚し、この年はどんな馬場でどんな能力が求められているのか?に応じて予想を柔軟に組み立てる必要があるなと感じた次第です。
パリロンシャン競馬場は奥深い競馬場ですね。
スルーセブンシーズの果敢な挑戦をたたえるとともに、また来年凱旋門賞に挑戦してくれる日本馬がいて、皆でその挑戦を応援できるのを楽しみにしています。
現役地方&海外馬主・競馬ライター
登録者5000人超え&累計再生250万回超えの一口馬主YouTuber。豪州競馬会員制コミュニティJJ Racing Club 共同代表。社会人1年目から一口馬主を始め、キャロット・シルク・ノルマン・ロード・DMMバヌーシーの5クラブに入会。地方個人共有とRSS や中條厩舎の豪州共有に加え北米MRHでマイクロシェアを行う。血統スタッツや馬体・歩様を重視していて代表馬はトゥルーフェアリー、ロードヴァレンチ、ミスティックロア等。
—最近の私––
Bluetoothでスマホと接続可能なスピーカー。重低音がとても強調されるので洋楽やアップテンポな曲が好きな私のお気に入り。防水機能つきなのでお風呂に持ち込んで音楽を聴きながら本を読むのが毎日の楽しみ。
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