今回はセリ体験談の実質最終回です。
若干攻めたテーマ設定をしてみましたが、セリ現場で感じたリアルな感想を、今回はお伝えしたいと思います。
「そういう意見もあるんだな」くらいの広い心で読んでいただけますと幸いです。
先日記事で紹介した通り、私は2023年3月に初めてオーストラリアのアデレードでセリに参加し、1歳の牝馬1頭を落札しました。
今回改めて感じた下見の重要性、実馬を見ることの大切さと、感じた限界についてお話をしていこうと思います。
馬体写真と実馬が全然違う?
「実馬は全然違うから、あまり歩様動画や馬体写真で絞りすぎると、いい馬を見逃してしまいますよ」
これは様々な競馬関係者から聞かれた、初めてセリに向かう僕に対してのアドバイスでした。
もちろん、今回サポートしてもらったRSSのメンバーや共有馬の預託先である中條調教師からも同様の言葉を投げかけられました。
“それほど実馬は違うのか、そうすると、普段動画や写真で検討しているのは一体何なんだろう”
コロナ禍や仕事の都合もあり募集馬見学ツアーには参加できず、写真と動画だけで募集馬を検討してきた私は、一抹の不安を抱えながら、事前に保存したチームで血統評価が高かった馬の馬体写真や歩様動画を見返しながらオーストラリアに向かいました。
セリ現場で感じたこと
到着翌日の早朝から、私とRSSチームは下見会場に入りました。
オーストラリアでは、セリに下見期間が設けられていて、バイヤーたちは気になる馬を馬房から出して立たせてもらったり、歩かせてもらったりできます。
下見をして感じたのは「やはり諸先輩方のアドバイスは本当だった」ということです。
馬体写真は全然よく見えなかった馬が、実馬ではよく見えたり、逆にこの馬はいい!と自信をもっていた馬が、実馬を見るとピンと来なかったり。
もちろん、事前の動画チェック時と印象が変わらない馬も数多くいましたが、一定数印象が大きく変わった馬がいたのは事実です。
最終的に落札に至ったLot269も、馬体写真の段階ではぴんと来ていなかった1頭でしたが、実馬を見て評価が一転しました。
“実馬をチェックするってこんなに大事なんだ”と強く感じたことを記憶しています。
こういったギャップは、募集馬見学ツアーを実施しているクラブであれば、実馬を見て解消することが可能でしょう。
しかし、なかなか毎年参加できるわけでもないでしょうし、ツアーを実施していないクラブもありますから、実馬を見る機会がないクラブは特に馬選びが難しいなと感じました。
逆に、募集馬見学ツアーがあるクラブは積極的にこれに参加し実馬を見ることで、より精度の高い検討ができるのではないかと強く感じました。
弊サイトライターのPONも、募集馬見学ツアーに参加しその重要性を感じたと話していましたね。
実馬でも1日目と2日目で違う
実馬をチェックし、1日目で50頭まで絞りこみました。
2日目の下見では、この50頭を再び順番に、1日目よりも1頭1頭時間をかけて入念にチェックしていきました。
すると「あれ?この馬は何でキープリストに入れたんだっけ?」「この馬、昨日こんなんだったっけ?」と首をかしげる馬が何頭もいました。
もちろん、前半から後半にかけて1日目の下見の基準が僕たちの中でぶれていた部分は否めませんが(前半は比較的甘めにつけていました)それにしても「初日はこんな馬じゃなかった」という馬が一定数いました。
RSSの川上さん曰く「慣れない環境で何度も馬房から出されていろんな人に見られながら歩くことは馬にとっても大きなストレスになり、疲れもたまるので1日目より馬体が寂しく映ることや、良く見えないことはよくありますよ」とのこと。
同じ馬でも、見る日が違えば同じ評価を下すことは難しかったと思います。
実馬を見てもこれだけ違うのに、一瞬を切り取った募集馬の写真と動画のみで判断を下すのは、ものすごく難しいことだと感じました。
ちなみにLot269は下見2日とセリ当日の3日間見ていますが、3日間ともよく見えたままでした。
そういった馬をFinalリストに残しているので、当然と言えば当然ですが。
一口馬主の写真と動画の検討は有益か?
同じ馬を複数回、複数日見ることでその馬の総合評価を判断することを時間軸的に“線で見る”とするならば、これは一口馬主の馬体写真と歩様動画では難しいです。
それでは、一口馬主の馬体写真と動画は募集検討に全く不要なのでしょうか?
僕はそんなことはないと思います。
例えば明らかに脚が内向外向している馬は、実馬もそのままの馬がほとんど。
そういったリスク要因の排除には十分有益と思います。
また、これはドライスタウト出資者でTeamJのメンバーのブロガー・クロキリさんもおっしゃられていましたが、馬体写真より動画の方がより実馬に近い場合は多いような印象を受けます。
また、セリの下見現場では
「〇〇番と比べてどっちがいいか?」
「活躍した同じ種牡馬産駒の〇〇という馬と比べてこの馬はどうか?」
などという議論が飛び交っていました。
こういった他の上場馬(募集馬)や、同じ種牡馬産駒を横で比較する“面で見る”ことは一口馬主の写真や動画でも可能ですよね。
”写真や動画でもある程度の精度で評価が下せる”という前提に立たなければいけませんが、同世代の同じ種牡馬や似た血統の募集馬たちと比べてみて、どちらがよりよく見えるか?を検討することはやはり有益であると感じました。
狙っている種牡馬がいるのであれば、自分の入っていないクラブ馬やセールに出ている同種牡馬産駒も見て、比較するのもいいのではないかと思います。
現在私も一口馬主4世代目に入り、2~3世代目の出資馬の勝率や複勝圏内率は飛躍的に向上しています。(執筆時点で2023年は14戦し3勝、2着3回と連帯率は50%近く)
もちろん血統に加えて馬体や歩様も検討して馬を選んでいますが、これは馬を完全に見極められているわけではなく、少しだけリスク因子の排除ができるようになっただけで、あとは運が良かっただけだと自分に言い聞かせています。
年明けから特に出資馬の調子がよく、私もどこかで”初期に比べて成長したな”という気持ちがありました。
しかし今回の経験で”動画を少し見たくらいで分かった気になっていてはいけないな”と少し恥ずかしくなりました。
馬体・歩様の写真と動画は切り取られた一部であることを忘れず、血統、厩舎、生産、育成牧場など他の要素と複合的に検討を進めていくことが非常に重要だと改めて感じました。
RSS川上さんもおっしゃられていて非常に共感した言葉を最後に紹介したいと思います。
「完全にピンポイントで走る馬を見極めることはできません。走る馬に巡り合える確率を1%でも高めるための努力と作業が“馬を見る”ということだと思います」
僕も全く同じ考えで、線で見る実馬ほどその確率は高められないかもしれませんが、写真や動画も1つの確率をあげるツールとしては有効だと思います。
実際の一口馬主の募集馬検討では、セリの最後の砦となる、レポジトリチェックもできません。
限られた情報の中で馬を選ばなければいけない難しさは、間違いなく一口馬主はあると思います。
写真と動画を過信しすぎることなく、うまく与えられた情報を活用して出資馬検討の精度を1%でも高められるよう、私も努力していきたいと思います。
現役地方&海外馬主・競馬ライター
登録者5000人超え&累計再生250万回超えの一口馬主YouTuber。豪州競馬会員制コミュニティJJ Racing Club 共同代表。社会人1年目から一口馬主を始め、キャロット・シルク・ノルマン・ロード・DMMバヌーシーの5クラブに入会。地方個人共有とRSS や中條厩舎の豪州共有に加え北米MRHでマイクロシェアを行う。血統スタッツや馬体・歩様を重視していて代表馬はトゥルーフェアリー、ロードヴァレンチ、ミスティックロア等。
—最近の私––
Bluetoothでスマホと接続可能なスピーカー。重低音がとても強調されるので洋楽やアップテンポな曲が好きな私のお気に入り。防水機能つきなのでお風呂に持ち込んで音楽を聴きながら本を読むのが毎日の楽しみ。
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