治郎丸敬之氏に聞く馬体を見る際の5つのポイント

名著「馬体は語る-最高に走るサラブレッドの見つけ方-」を執筆され、競馬雑誌「ROUNDERS」編集長でもある治郎丸敬之氏をお迎えして、馬体の見方から競馬ライターとしての変遷、ROUNDERSや血統に至るまで2回にわたってお話をお聞きしたいと思います。

治郎丸 敬之さん プロフィール

競馬雑誌「ROUNDERS」編集長。一口馬主DBや一口馬主クラブ会報誌、週刊「Gallop」にて記事を連載中。単なる馬券検討ではなく、競馬の持つ様々な魅力を広く伝えることをモットーとしている。

オーストラリアのマジックミリオンズセールにて西谷泰宏調教師と(左が治郎丸敬之氏)

■治郎丸さんの競馬とは

――現在、治郎丸さんは「ROUNDERS」の編集長やクラブ会報誌、週刊Gallopなど多方面で競馬評論家としてご活躍されていると思います。そんな治郎丸さんが競馬とどのようにして出会ったのか、個人的にはずっと聞いてみたいお話でした。競馬を始められたキッカケは何だったのでしょうか?

治郎丸敬之氏(以下敬称略)
友だちに後楽園のWINSに連れて行ってもらったのがキッカケです。その時は馬券を買って負けたのです。ですので、ビギナーズラックで儲かったから始めたというわけではなく、負けたけどこれは奥行きのある知的ゲームに違いないと、その時感じたのですよね。単なる負けず嫌いかもしれませんけどね(笑)。

その後、一番の決め手はその年の秋の天皇賞で初めて競馬場に行ったことです。
まず都内にこんな広いところがあったのだと驚きました。空が広いじゃないですか?競馬場の門をくぐった瞬間に、何という広い空間だ!と驚いて(笑)
当時は今とは比べものにならないほど人がいて、レースが見られないのですよ。

――人が多すぎてでしょうか?

治郎丸 そう、人の壁で。競馬場に行っているのに、レースや馬が見られないのですよ。人しか見えない(笑)。皆の歓声で何が勝ったか判断するしかありません。モニターはあったのですが、それすら見えませんでした。でも周りの反応で何が起こったのかわかるくらいの空間を体験したのです。日常生活ではなかなか味わえないような興奮の坩堝(るつぼ)というか。こんなスポーツがあったのだと思いましたね。

――それからはイチ競馬ファンとして見られていたのですか?

治郎丸 完全な馬券ファンです。一口馬主クラブもありましたが、今ほど流行っていませんでしたね。知的ゲームであるということと興奮がつまっているスポーツだという両面で始めたので、馬券を買って応援したりしていました。予想することが楽しかったですし、最初の十年はそういう形で競馬と携わっていました。

――当時は今ほど予想ツールも豊富ではなかったと思います。情報収集も一苦労だったのではないでしょうか?

治郎丸 そうですね。インターネットもそんなに普及してなかったですしね。情報量は圧倒的に少なかった。だから本がとても貴重な情報でした。書店にある本はほとんど読んだと思うし、「Number」の競馬特集とかも買って舐めるように読んでいました。みんな情報に飢えていた時代でしたね。少ない情報の中でも想像することは案外楽しかったです。今は情報があふれていますから、「ROUNDERS」vol.5のような本を全部読み込むなんていう人はなかなかいないと思います(笑)。

――まさに知的ゲームといった感じですね。競馬の知識に対する貪欲さがすごいです。ほかのギャンブルはされないのですか?

治郎丸 ひと通りパチンコとか競艇とかオートレースとかやったことはありますが、あんまり面白いと思わないというか、競馬に関してだけは知的なゲームだって思ったのですよ。当時は、答えや正解のようなものがあるような気がして、それを解き明かしたという気持ちがありました。今は一つの正解があるとは思わないですけど。

■競馬ライターとしての原点

――競馬ファンから競馬評論家へとより深みに入られる過程があったと思うのですが、その点についてもお伺いさせてください。ライターとして競馬のことを書かれ始めたのはいつ頃からですか?

治郎丸 2001年のトロットスターが勝ったスプリンターズSです。その時、自分でHPを立ち上げて、レース回顧を初めて書きました。

――当時は今ほどHPを作ることも容易ではなかったと思います。熱量がすごかったのですね。

治郎丸 競馬について書きたいという気持ちはありましたが、当時は発表する場がなかったです。今はTwitterとかブログとかネットを使えばいくらでもできるじゃないですか?ネットが普及してなかった時代は、雑誌くらいしか書く媒体がなかったのですが、一部の人たちに独占されていましたし、20代の僕が入れてもらえるスペースは当然ありませんでした。そんな状況の中、インターネットが出てきたとき、HPなら好きなこと書けると思って、自分で書く場所を作ったのです。最初はアクセス数とかも分からなくて、誰が見ているのかさえ知り得ませんでした。だから完全な自己満足ですよね。誰も見てないかもしれないけれど、自分が書いたことを公開できることがとにかく嬉しかった。そこが原点ですね。

――誰も見てないかもしれないけど書く。これって言葉では簡単に言えますが、容易なことではないと思います。

治郎丸 誰かに評価をされることを期待したり、お金をもらうからすることって、本当じゃないというか。誰からも評価されなくても、好きでやっている唯一のことが僕にとっては競馬について書くことだったのですよね。今は原稿がいくらとか何人ぐらいが見ているとか分かってしまうからややこしいけれど、そういう気持ちが原点です。

■馬体を見る際は5つのポイントで

――治郎丸さんが編集長を務められている「ROUNDERS」は毎回様々なテーマを題材にされていると思います。直近で発売されたvol.5では血統がテーマでした。そんな中でも治郎丸さんと言えば馬体というイメージが強いです。せっかくですので、読者の方に向けて、馬体を見る際のポイントをお話いただけますか?

治郎丸 まず押さえておきたいのは全体のバランスです。馬体って、知れば知るほど細かい部分を見るようになるのですよ。ただ、一つひとつの細かい部分を見るだけで、馬が走るかどうかを判断することは難しいと思います。こんなたとえ話があります。生きた魚を理解したくて、一部分を切り取って解剖するのですが、理解したあとに切り取った部分を戻すとすでに魚は死んでしまっている。それと結構近くて、細かい部分がわかっても、全体としてはわからなくなってしまう。最終的には素人の人がパッと見た時の印象くらいが一周回って正解に近いのではないかと思うけど、それを言ってしまうとこの話は終わってしまいますよね?(笑)玄人らしく答えておくと、僕の中では5つのポイントを見て、トータルで判断しています。

馬体を見る際の5つのポイント

・筋肉のメリハリ
・顔つきや表情
・毛ヅヤ
・胴体と手足の長さのバランス
・全体のバランス

治郎丸 この5つを見てトータルで判断していますね。細かい箇所を見ること自体には意味はあるのですが、最終的にその馬が走るか走らないかには大きな影響を及ぼさないのではないかと思います。そこはプロのホースマンとは違う視点かもしれませんね。

■全体を見ることの重要性

――「馬体は語る」では1歳馬は加点で見た方がいいと書かれていました。これは個人的にインパクトが大きかった内容です。馬体を解説される方は繋ぎや飛節の角度など細かいポイントで減点する方が多い印象があります。

治郎丸 そうですね。少し違う箇所はありますが、全体を見ることが大事という点は現役馬のフォトパドックを見る時も1歳馬も同様です。細かい部分を見たり、欠点を言い出したらキリがなくなって、何も買えなくなってしまいます。全てが完璧な馬などいませんし、もしいたとすれば2億円くらい超えてくるかもしれません(笑)。知れば知るほど欠点が目につくようになるため、馬を見ることは難しいなと感じます。

――欠点のお話が挙がったので、セリで馬を買う際のことについても教えてください。セリではレポジトリーなど医療情報がわかると思いますが、そういうマイナスポイントは気にされますか?

治郎丸 そうですね。ただ細かい部分に関しては専門家の人の方が良く知っています。
たとえば、飛節にしても、トモの造りにしても、専門家の人は僕よりも詳しいので部分に目が行くはずですが、僕は細かい部分を見られない分、全体を見るようにしています。オーストラリアで馬を買った時は、細かい部分は調教師や専門家の人にチェックしてもらいつつ、おおよその部分は僕がこれかこれがいいみたいな感じで決めました。お互いの意見が合ったところで買うみたいな感じがいいかなと僕は個人的に思いますね。

――なるほど。ちょうどいいバランスといいますか、全体を見失わない感じですかね?

治郎丸 全体と部分という異なった2つの視点で見るということですね。バランスって言葉で表現するのが難しいので、専門家の人に馬体を語ってくださいと言うとテクニカルなマイナスポイントが多くなってしまうのは、部分を語らざるを得ないからではないでしょうか。飛節がブレていますと専門家に言われても、正直、僕には見分けられないこともたくさんありますし、分からないから任せられる部分もあると思います。

(次回は血統やROUNDERSを中心にお話をお聞きします)

↑治郎丸さんが編集長を務められている競馬雑誌『ROUNDERS』のVol.5です。


貴 シンジ

牝系研究家・競馬ライター

牝系こそがサラブレッドの根幹であると考え、日夜サラブレッドファミリーの研究と最適な配合の追求を行う。競馬予想、血統解説、コラムなどを通じて競馬の魅力を多くの人に伝えることをモットーとしている。SPAIA競馬でも記事連載中。

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