どうも、ジェイです。今回は私の豪州共有馬、トゥルー(シダーレーンの20・父リアルスティール)の所属先となるオーストラリアの中條調教師(@DChujo)をお招きし「安くても活躍する馬を見抜く方法」を伝授していただこうと思います。
中條厩舎所属馬では、総額50万円以下のリアルインパクト産駒・バハムートでメトロのレースを勝利するなど、中條師は安価な馬から活躍馬を見抜くスペシャリストです。
中條調教師には以前にもコラボ対談をさせていただいております。中條調教師を知らないよ!という方はぜひこちらをご覧ください。
安価な馬でも活躍馬多数
ジェイ:先日はベタータイムスの勝利、誠におめでとうございます。海外共有馬主仲間も多くこの馬を共有していたため、祝福の嵐でしたよ。
中條調教師はベタータイムスだけでなくリアルインパクト産駒のバハムートなど、決して落札額の高くない馬たちがメトロ(日本でいう中央競馬)で勝利しているイメージがありますが?
中條師:シンプルに高い馬が買えないだけですけどね。(笑)
僕の場合は自分で買って共有募集も少しやっていますが、それよりもうちはオーナーさんから預かった馬を調教することがメインです。
オーナーさんの要望があって、やはり予算がみなさんあるわけなので、その予算内で探すことが多いです。
その際に日本からオーストラリアで馬主を始める方は手探りの方がほとんどで「いきなり何千万使うのは怖い」という人が多いです。
そのため「とりあえず100万〜200万くらいで」というケースが多いですね。
オーストラリアは安くてもいい馬を手に入れられる可能性がそこそこあるので、そこをうまく狙うということでうまくいったのがバハムートですね。
ジェイ:バハムートっていくらでしたっけ?
中條師:バハムートは5000ドル、日本円で44万〜45万円くらいです。
この馬は”あたり”でしたね。この馬は最後はオーナーさんが選んでくれた馬です。
リアルインパクト産駒が欲しいということで何頭かピックアップして「これとこれがいますどれがいいですか?」という形で紹介しました。
オーナーさんが最後に選んだ馬がバハムートだったということですね。
ジェイ:ベタータイムスはどんな経緯で中條厩舎で共有馬主を募集されることになったんですか?
中條師:バハムートが3歳の時に勝ったレースを見ていた生産者が感動を受けて、わざわざ僕の電話番号を調べて電話してきて「こんな馬がいるんだけどやってくれないか?」とオファーをくれました。
リース契約で、引退したら生産者の元に戻る形ですが
「競走馬の時は馬主を集めて走らせる形でやってくれないか?」と言われて、とりあえず馬を見にいきました。
するととてもいい馬で、「これは走るな」と思い、是非やらせてくださいということで、引き取り共有オーナーを募った馬ですね。
血統は悪くなくて、母母がオーストラリアの有名な牝馬でG1馬、父親がベターザンレディ、クイーンズランドで活躍している種牡馬ですが、平均セリ取引3万ドル(当時の1ドル80円レート計算だと240万円)くらいです。
この馬もセリに出ていたらそのくらいの値段だったんじゃないか?と思います。
安い馬から活躍する馬を見抜く極意は?
ジェイ:まさに「安い馬でも活躍する」というイメージがある中條厩舎ですが、活躍馬を見抜く一番重要なポイントは先生はどこだと思いますか?
中條師:とりあえず一番大事なのは、”健康”であることですね。
どれだけ脚の速い馬でも、体質が弱かったり、脚元が弱かったりする馬は絶対に走れないので、とにかく健康で、丈夫な馬を探しています。
脚が曲がっていてもいいんですけど、丈夫な馬。
競馬でしっかり使える馬というがまず大事ですね。
ジェイ:健康な馬、丈夫な馬っていうのはどういう部分で見るんですか?
中條師:まず、レントゲンチェックと喉のチェックが大事ですね。
レントゲンも完璧な馬は少ないのでどのくらいのリスクがあるのかを見ます。このくらいのリスクなら大丈夫かな?という馬もいます。
”無事是名馬”とはよく言ったもので、どれだけいい馬でも怪我したり足が痛くなってしまうとメンタルにきてしまうことが多いんです。
基本的に一度怪我した馬って怪我を気にするので自分でセーブして怪我をしないように走るけど全力で走らなくなってしまう馬もいるんですよ。
一方、脚が曲がってても僕はあまり気にしないことがあります。
軸がしっかりしてたりバランスが良かったりすると、生まれつき脚が曲がっていてそのまま育ってきているので、馬もそれにアジャストしていることもあるんですよ。
あまりにもぐにょぐにょでバランスが悪い歩きもすごく悪い感じだと、さすがにそういう馬は…。ですが脚が少し曲がっていても
○しっかり歩けている馬
○軸がしっかりしている馬
○馬体のバランスがいい馬
は逆に安く買えるチャンスかなと思って狙います。
血統良くて馬体しっかりしているけど脚が曲がっていることを理由に見送られる方も多いので安く買えることがあるんですよね。
ジェイ:しっかり歩けている馬や馬の軸がしっかりしている馬、わかるようなのですが、抽象的な表現でもありますよね。具体的にはどのような観点で中條調教師は見られていますか?
中條師:後ろ脚を前に着地した時に、しっかりグリップして、地面をしっかり蹴っているかって感じですね。
特にオーストラリアは馬場がタフで、日本みたいにバネがなくて沈む感じの馬場が多いです。
そこでしっかり地面を蹴って前に進めるパワーがある感じです。
軸がない馬というのは歩いた時にぐにゅぐにゅってなってしまう感じがあると思います。
着地して体重が乗ってグイッとしっかり蹴り上げる推進をする時にふにゃって弱々しいのは、あんまり好きじゃなくて…。
ジェイ:ぐっと、後ろ脚の推進力がある感じでしょうか?
中條師:そんな感じです。踏み込みが深くなくても、豪州は脚が速い馬が多いんですよ。
日本の方は中距離馬が多いので踏み込みが深い馬が好きな人が多いですけどね。
こちらは短距離が多いからかもしれませんが”ピッチ走法”の馬が多いので、回転数が速いことがすごく大事です。
その回転数は、着地と蹴り上げる時の推進力である程度わかるのではないか?と思っています。
あとは前から見て、※”幅”というんですかね、馬体が薄いタイプはあんまり走らないし人気がない。結果が残せないイメージがあります。
※豪州競馬での話です、日本競馬の場合幅が薄くてもビュッと切れる脚を持つ馬が活躍することもあるそう
ジェイ:縦から見た時の横幅のことでしょうか?
中條師:そうです。有名な馬ですがスニッツェルなんかは、まさに幅がある馬ですよね。
豪州はパワフルでタフな競馬が多いのでぶつかり合い、多少のタックル感はあるので馬と馬の感覚が日本より狭いのでそこをパワーで押し切る競馬、ぶつかり合いにも怯まない馬体があった方が勝てるチャンスが多いんです。
ちょっと肩幅があって、お尻も大きくて、少しお相撲さんみたいな感じの方が、レース中の激しいポジション争いを制して、直線で進路をこじ開けることが結構オーストラリア競馬では普通にあります。
それに耐えられる馬が大切です。
気性の重要性
中條師:多くの人が見ないポイントが”気性”ですよね。
日本で言う気性だと、気性が荒い・荒くないと言う感じですが、僕が言っているのはメンタルが強いか?弱いか?ということです。
これがすごく大事で、ちゃかついてもいいんです。
HOTな馬というんですが、それは別に大丈夫なんです。
どちらかというと心配なのは、レースに行って緊張してしまう馬とか、テンパってしまう馬です。
そういう馬って呼吸が浅くてしっかり呼吸しない馬が多いと感じています。
そうすると息が入らないので最後伸びてこなかったりするんですよね。
ジェイ:呼吸やメンタルの強さですか、これはどこで中條調教師は見るんですか?
中條師:呼吸はセリや動画ではほとんどわかりません。
そのため私は目で判断しています。
目に馬の性格が出る馬が多いと言うか、神経質な馬は神経質な目をしているんです。
説明しにくいんですけどね(笑)
どっしりしている馬はそういう悟っているような目をしています。
うちのバハムートやベタータイムスはそういう目をしています。
それはまた年を重ねることで気性は解消するタイプもいますし、ずっとそのままのタイプもいます。
馬具の工夫でうまくいく馬もいますし、いろいろですが、セリでそれを見極めるのは難しいのでそこは血統情報で補います。
ジェイ:血統に対する馬体イメージや気性イメージを持つということでしょうか?
中條師:そうですね、特に父親が強く出ている馬とかは、だいたいイメージがあります。
初年度だとわからないですが、2−3年やっている種牡馬とかで手がけてきている馬だったりすると、「この種牡馬のこういうタイプは走る」みたいなのはある程度見えてくる感じがありますね。
歩様診断の限界
中條師:歩様と背中の見方は一般論で僕はそれでいいと思っているんです。
踏み込みが良かったり、背が垂れていない、綺麗な背中のラインの方が連動性があるし、首の使い方とか。でもそこは好みだなと思っています。
ある意味フェラーリが好きな人かランボルギーニが好きな人かみたいな、そういう感じです。
この前トレーニングセールに行ってみたんですけど、歩いている馬と実際走っている馬、質が全然違う馬がいっぱいいました。
歩いているだけだったら「すごいコツコツしてるな」と思っていてもギャロップしているビデオをみたら「脚が伸びてすごくいい馬だ」とかいたりします。
歩きだけで判断するのは非常に難しいなと改めて思います。
ブラッドストックエージェント(プロ)の見方はちょっと違うかもしれませんが、僕はそこまで歩いて綺麗だからといってそれだけで決めることはしないですね。
あとは、大きなセリは下見も含めると7日くらい続きます。同じ馬でも初日に見るのと7日目に見るのでは馬の疲れ具合が全然違うんです。
馬も何度も出て歩いてストレスになって疲れていることもあって、違う日に同じ馬を歩かせても「全然違う馬じゃないか?」と思うことがあります。
ビデオでチェックしても、いつどこで撮ったのかわかると検討材料として使えると思いますが、それこそ下見の時はノソノソ歩いていたのに本番リングに上がるとギアが入ってキビキビと歩く馬もいるんですよね。本当に難しいです。
セリの時の選別方法は?
ジェイ:大きなセリ前には100頭以上、膨大な上場予定馬リストの中から、落札する馬が決まっていくと思いますが、候補馬を絞り込むときはどのようなに絞っていくのでしょうか?
中條師:僕が買う場合は、まずカタログが届いてとりあえず血統を全てみます。
全頭の血統をみて母系もみて好きな血統というか、今まで成功を経験したタイプの血統を見て、そこから興味のあるものをピックアップしていって、繁殖牝馬の年齢を見ます。
高齢になるとあまり結果が出ない馬が多いので。それでも血統がよければ見ますが、割り引いてみるようにしていますね。
それからセリに入って、基本的に自分がいいなと思った馬は全頭見るようにしていますね。
そこからぶっちゃけていうと、リザーブ価格(最低落札価格的なもの)を聞いて(笑)
”これ高いから無理だ”と言う馬は全部切ります。
僕が買う場合は、共有馬主を募る場合が多いので、あんまり高すぎると人が集まらないので。
特に一口馬主向けに共有となるとお手頃価格の方が共有しやすいので、この馬体でこの血統でこのレントゲンならこれくらいじゃないか?というのを自分なりに予想して、リザーブを聞いて選んでいく感じです。
出品者によっては、リザーブは教えてくれないところもありますが…。
”良血だけど少し脚が曲がっている”とか”血統微妙だけど動きはめちゃくちゃいい”とか、掘り出し物狙いというか今の段階の僕の馬選びはそんな感じです。
そのうち素直にいい馬を狙いに行きたいですけど、理想を追い求めると何千万円クラスの馬になってしまうので(泣)
その1ランク2ランク下でもメトロを戦える馬だったり、長距離馬だったり、安い価格で重賞を狙えるような馬も出てくるので、みんながいいと思わない方をあえて狙いにいくことはけっこうあります。
最後の確認ポイントは?
ジェイ:リストから絞り込んだ上で最終的に入札するかを判断する、中條調教師なりのポイントはありますか?
中條師:セリにのぼる前に、番号が近い馬は裏で回っているんです。スピーカーも流れていて人もうじゃうじゃいて、結構そこでテンパる馬もいます。そこで”本当の歩き”が見れるかなと思います。
馬の実際の本気モードスイッチが入った所を見られるので、そこで今までの最終チェックをします。
歩様やメンタルもみますが、最後は”雰囲気”ですよね。
やっぱりいい馬ってそういう”オーラ”が出ているというか。
なんというか、ちょっと他の馬よりも雰囲気が違う、そんなことがあります。
1歳馬なのでなかなか難しいですがね、成長してグンと良くなる馬もいるので。
そこで最後見て、価格動向を見ながら手を上げます。
こちらは日本と少し違って希望価格が日本は出てそこからスタートですが、豪州はリザーブ価格が公表されないので、リザーブをセリ中に変えていいんですよ。
売り手がハンマーの隣にいて、とりあえずスタートの値段を決めるんですけど、あまりにも反応がない場合は低くして途中で売れなそうだなと思ったら「リザーブを下げて」と言うことができるシステムなんですよね。
ただ、牧場側もセリに出すコストがかかるので、こっちでは頻繁に”空あげ”があります。
これは実際は入札が入ってないんですが、入っているようにどんどん上がって行ってリザーブまでとりあえずセリ上げると言うやり方です。
リザーブ超えたあたりでシーンとしたりすると「これまだ本当の入札入ってないな」と思って、「リザーブ付近でこれ買えるかも」と思います。
僕が、今年の2月に買ったサクソンウォリアー産駒はリザーブ価格が分からなかったのですが、思ったよりもポンポンセリ上がりませんでした。
同産駒の他の馬は5〜6万ドルいってましたが、僕が買った馬は、2万ドルくらいで止まっていたんです。
同じセリで4−5頭いたサクソンウォリアー産駒の中で僕はこれが一番いいと思っていたので入札してみました。
何回か返されましたが、確か2.6万ドルくらいで落札できました。
絶対買いに行くと言う感じで行かずに、うまく要素が重なって買える時だけ買うと言う感じ、自分のスタンスはそんな感じです。
ジェイ:日本のセリ会場では下見の時に脚触っている人がいますけど、先生はあまりしないのですか?
中條師:1歳馬はしないですね。
よほど腫れていたり、変な屈腱の形をしていると触ったりしますが。
基本触るのはトレーニングセールなどの2歳以上の馬です。念の為ギャロップまでしている馬は直接触って屈腱の形などを確認しています。
基本的にくっきり真っ直ぐしているのが普通で、もっさりしていたりもこっと、ぽこっと出ていたりするとなんでだろう?となります。
歩様動画で判断できるものは?
ジェイ:多くの日本の一口馬主は、現地で馬を見ることができません。中條調教師もオンラインセールでは歩様動画や写真を見て検討されていると思いますが、その際に見るべきポイントはありますか?
中條師:難しいですけど、サイズだったり、形というのはある程度わかるかなと思います。
僕らの場合はオンラインセールでも実際牧場に電話してその馬の状況やどんな馬かについての情報収集をします。
信用できる人に聞かないと中には適当に答える人もいるので、こちらが持っている人脈をフル稼働して情報収集にあたります。
最近のビデオは品質が上がっていて、特に大きな牧場だとプロに撮影を委託しているので”実馬よりよく見えること”が結構あります。
正直、セリの現場で見たらこれ別馬じゃないの?という馬は結構いるのでビデオだけで判断するのは僕は難しいと思います。
あと「理想の形はこれです」と言い切るのは難しいです。
○早熟がいいのか?
○晩成がいいのか?
○スプリンターか?
○ステイヤーか?
でそれぞれ違うんですよね。
オーストラリアの場合、競馬場もたくさんあって直線の長さやいろんな形があります。
その競馬場にあった走り方をできる馬が強いです。
クイーンズランド州はスタートが大事で行った行ったの競馬が多い。
NSW州だとスタートがゆっくりになったり、テンがはやくない競馬場が多かったりする。
メルボルンは長い距離が多いので競馬が違ったり、州ごとによって合う馬がいたりするんですよね。
僕個人が何も考えずにただ単に普通に欲しいっていうのは、やはり日本に持っていける馬です。そ
れこそジャパンカップに出られるような馬を探しますが、オーストラリアには滅多にそういう馬はいません。
早熟短距離馬が多いのでなかなかセリでは出てこないですね。
そのため、オンラインでそういう馬を探したりします。
セリに出すだけでもコストがかかるので、それこそ大手のアローフィールドなどでもセリに出さずにオンラインで出すような馬もいます。
ジェイさんに共有いただいている、トゥルー(シダーレーンの20)も販売元はかなりの大手牧場です。
トゥルー(シダーレーンの20)もそうですが、遅生まれだったり晩成だったり、ステイヤータイプだったりとセリに出しても値上がりが見込めない場合は、コスパを考えてオンラインで売った方が利益になるよね、という形になります。
オンラインはレントゲンチェックがない馬もいるので難しさはあるんですけどね。知り合いを通じて情報収集してから買うようにしています。
Lot: 147 Tosen Stardom (JPN) / Sister Angel (AUS)
例えば、新馬以外では、こういうのが狙い目ですね。
トーセンスターダムは2歳の成績があまり良くありませんが、この血統は3歳になってからだと思いますので、まだ見切るには早計です。
この馬は母系が中距離血統で、現オーナーが預託料未払いで牧場側がリザーブ無しで売りに出しています。
これは安くなると思います。
共有募集には向かないかもしれませんが、買いたくなってしまうような馬です(笑)
いかがでしたか?今回の記事で少しでも参考になった!というポイントがあれば幸いです。
オーストラリア競馬や海外馬主について興味が出たという人はぜひ中條調教師のTwitterを覗いてみてください!
中條調教師Twitter:@DChujo
ジェイ
現役地方&海外馬主・競馬ライター
登録者4000人超え&累計再生200万回超えの元一口馬主YouTuber。社会人1年目から一口馬主を始め、キャロット・シルク・ノルマン・ロード・DMMバヌーシーの5クラブに入会。地方個人共有とRSS や中條厩舎の豪州共有に加え北米MRHでマイクロシェアを行う。血統の配合相性を重視していて代表馬はロードヴァレンチ、リレーションハート等。
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