今回はオーストラリアの中條調教師との対談記事になります。よろしくお願いします。
トレーニングセールと時計
ジェイ:今回は私もトゥルーフェアリーでお世話になっているオーストラリアの中條調教師に、お話を伺っていきます。よろしくお願いします。今回のテーマは”トレーニングセール”について。トレーニングセールは日本でもなじみがあり、特に一番時計を出した馬は高額で落札されその後も注目されますよね。
今年の2歳馬のトレーニングセールではノルマンディーOCが落札したパラダイスコーブの21がトゥルーフェアリーと同じリアルスティール産駒で1番時計を出し、注目を集めました。まず、中條先生はこのトレーニングセールの”時計”についてはどのように評価されていますでしょうか?
中條調教師:もちろん、タイムがいい馬は注目されますし人気になります。
タイムがいいに越したことはないのですが、それよりも走りのバランスであったりといった内容面を重視しています。
特に明け2歳2か月である10月にオーストラリアのトレーニングセールは行われるため、仕上がりが早い馬がどうしてもいい時計を出すんですよね。
晩成で成長力のある馬はトレーニングセールでは見落とされがちなのでそのあたりは血統とも照らし合わせながらしっかり狙っていきたいです。
また、オーストラリアのトレーニングセールには香港のバイヤーも多く参加します。
タイムがいいほど割高になることもあり、お値打ちの馬を買うのは難しくなるかもしれません。
ジェイ:そもそも、レースに出る時と同じくらいか、むしろそれよりも早いくらいの時計がトレーニングセールでは出ているように感じます。2ハロンだけ速く走ることができる”クォーターホース”なんて言葉も耳にしますが、やはりレース前の調教とセールに出る馬の調教は違ったりするものなのでしょうか?
中條調教師:はい、これは違いますね。
トレーニングセールに出る馬は早めから時計を出す練習をしています。
具体的にはゆっくりキャンターで回ってきて、最後の直線でびゅっと時計を出すトレーニングセール仕様の調教です。
これは競馬に向けた調教とは異なりますよね。
15-15で長くスピードを維持しながら乗るような調教はしていないわけですから。
そのため、トレーニングセールの時計は競馬での実績には必ずしも直結しないと僕は考えています。
チェックポイントは?
ジェイ:なるほど、よくわかりました。であれば、中條調教師はどのようなポイントでトレーニングセールの馬を選んでいるのでしょうか?
中條調教師:もちろんタイムを全く見ないわけではありませんが、重視しているのは走り方のバランスとライダーです。
走りのバランスに関しては、手前をスムーズに変えられているか?という縦軸から見るバランスと、横から見た時に身体のバランスを見ます。
横から見た時は、水平~少し前(頭のほう)が上がるくらいがいいと思っていて、前脚の軽さを感じる馬がいいですね。
逆に頭の方が沈み込んでしまっていて前傾姿勢のようなバランスになってしまっている馬は後ろ脚のパワーを推進力に変えることが難しくなると感じていて、僕はあまり高く評価していません。
ジョッキーが騎乗しているのか?ジョッキーと比べて体重が重いトラックライダーが騎乗しているのかで時計の出やすさはまったく変わってきます。
同じタイムでジョッキーと体重が重いライダーが乗っている馬がいたら、内容的には体重が重いライダーが乗っている馬の方がよいですよね?
そのため、乗り役を見ることはトレーニングセールではとても大切です。
また、他のチェックポイントだと走りにどれだけ集中できているかというところも見ます。
立ち姿や歩様だけではわからない気性面が走りを見ることで分かることもありますからね。
また、どれだけ追われているかというところももちろん確認します。
追われていないのに伸びている馬はいいなと思う反面、追っていないようにみせて追うという裏技的なものも実はあるのでここは注意が必要です。
血統などほかの要素ももちろん確認するのですが、通常のセリ以上にトレーニングセールはせっかく走っているところがみられるセールなので、走りの部分を重視して馬選びをするようにしています。
トレーニングセール馬は即戦力?
ジェイ:なるほど、よくわかりました。前述のノルマンディーOCのパラダイスコーブの21は、募集が終わるとすぐに本州に移動し、入厩に向けた準備が進められるなどトレーニングセール馬は即戦力に近い馬も多いような印象を受けます。オーストラリアのトレーニングセールでは、セール出身馬のその後デビュー状況はどのようになっているのでしょうか?
中條調教師:いいタイムを出しているセール馬はすぐに実戦で使えると思われるかもしれませんが、意外とそんなこともないです。
前述したように、トレーニングセールと競馬では調教の仕方が違うので競馬仕様に馬を作り変える期間が必要だということもありますし、セリで馬にかかる負担は大きく、ガス抜きをする期間を作ってあげることが大切だからです。
トレーニングセールに出る馬は、2歳の初期に時計を出せるよう調教され、タイム計測時には馬体を絞って臨みます。
タイム計測後実際のセリまでの期間は概ね1週間~3週間ほどですが、今度はセリの時に見栄えするようにたくさん食べさせて少しでも馬体が増えるようにしていくんです。
そしてセリでは、多くのバイヤーに下見で見られるため、厩舎内と外を何度も行き来するなどストレスのかかる環境に晒されます。
この一連の流れで、馬は結構疲れてしまっているんですよね。
そのため、トレーニングセールを終えた馬はいったん放牧に出して、そこから徐々に立ち上げていくのが一般的です。
オーストラリアのトレーニングセールは”Ready to Run”と呼ばれすぐ使えるように受け取られがちですが、一概にそうとも言えないんですよね。もちろん、馬によりけりなんですけどね。
ジェイ:中條厩舎では、トレーニングセール明けの馬はどのような方針で育てていき、デビューへと向かっていくのでしょうか?
中條調教師:これまで2頭をトレーニングセールで落札していて、1頭は2歳後半でデビュー、もう1頭は3歳未デビューですが、先日模擬レースであるトライアルに初出走し1着になりました。
うちの厩舎のトレーニングセール購入馬は、どちらも落札後は放牧に出しましたし、入厩して調教を進めていく中でも疲れを感じたら放牧に出すようにして育てていきました。
血統や馬体の完成度的に早期から行ける馬ももちろんいるのですが、うちの厩舎と縁があった2頭はどちらもじっくり育てていこうというタイプだったこともあり、このような方針になっています。
3歳未デビューの馬は、トレーニングセールの時は物見をしてしまっていてタイムが悪かったので安く購入できましたが、出遅れから末脚を使って1着になったトライアルを見る限り、いいスピードを持っていると思います。デビュー戦が楽しみです。
ジェイ:今回は非常に深い内容を教えていただきありがとうございました。記事のベースとなった対談の全容はYouTubeで公開しています、是非こちらも併せてご視聴いただけますと幸いです。(チャンネル登録もよろしくお願いします)中條先生、お忙しいところ本日はありがとうございました。
現役地方&海外馬主・競馬ライター
登録者5000人超え&累計再生250万回超えの一口馬主YouTuber。豪州競馬会員制コミュニティJJ Racing Club 共同代表。社会人1年目から一口馬主を始め、キャロット・シルク・ノルマン・ロード・DMMバヌーシーの5クラブに入会。地方個人共有とRSS や中條厩舎の豪州共有に加え北米MRHでマイクロシェアを行う。血統スタッツや馬体・歩様を重視していて代表馬はトゥルーフェアリー、ロードヴァレンチ、ミスティックロア等。
—最近の私––
Bluetoothでスマホと接続可能なスピーカー。重低音がとても強調されるので洋楽やアップテンポな曲が好きな私のお気に入り。防水機能つきなのでお風呂に持ち込んで音楽を聴きながら本を読むのが毎日の楽しみ。
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