【種牡馬分析】脱・失敗種牡馬!?レイデオロ産駒の逆襲がアツい件

今、レイデオロがアツい。

苦難の種牡馬デビュー

第1世代がデビューし、3歳となった2023〜2024年、レイデオロはついに重賞を勝てなかった。
種付け料と頭数も、推移は以下の通り

1年目 600万円 196頭
2年目 600万円 170頭
3年目 700万円 174頭
4年目 700万円 149頭 (産駒デビュー)
5年目 500万円 39頭 
6年目 250万円 69頭
7年目 200万円(2026年価格)

驚異のCPI2.0 (普通の種牡馬と比べて繁殖牝馬の質が2倍良い) を叩き出したレイデオロ。
その人気から産駒デビュー前に値上げをすると言う強気な価格設定であった…が、産駒がデビューすると一気に暗雲が立ち込めた。

その負の衝撃は、サララボでも急遽記事に取り上げたほどだった。
一気に人気は低下し、2024年はわずか39頭(1年目の19%)にまで減った。

逆襲のレイデオロ

しかし、2025年にきてその風向きが変わりつつある。

レイデオロ、悪くないのでは?

という声が(一部から)上がってきている。

実際に、あれだけ勝てなかった重賞を、2025年だけで4勝(2025/12/16現在)しており、またその得意分野も明確になりつつある。

ここで改めてレイデオロの過去の考察と現在の成績を用いて考察していこう。


【回顧】2023年7月、レイデオロ論争の原点

これからの検証記事に入る前に、サララボで行った2023年7月「新種牡馬レイデオロ」に付いての記事を振り返ろう。
レイデオロ産駒がデビューした直後のことである。

【新種牡馬考察】レイデオロは本当に失敗種牡馬なのか? byジェイ&M石土井 – サラブレッド研究所 / Thoroughbred Lab.デビュー済みのレイデオロ産駒の成績 出走済みのレイデオロ産駒(7月5日執筆時点) ・レイデラルース 23年sarala6.com

当時、レイデオロ産駒は苦戦を強いられていた。2023年7月5日時点で未勝利。掲示板を外す馬も多く、巷では早くも「失敗種牡馬ではないか?」という悲観論や、失望の声が上がっていた。

そんな中、我々サララボが出した「初期考察」は、悲観論とは少し異なる角度からのアプローチを行った。 今回の答え合わせを行うにあたり、当時の我々の仮説をここに再掲する。

1. 「気性難」と「晩成」の予兆(ジェイ考察)

まず、ジェイが指摘したのは、「気性」と「晩成傾向」についてである。

  • セン馬だらけの牝系図 レイデオロの母系(ラドラーダ一族)を紐解くと、弟のレイエンダを含め、去勢されたセン馬が異常に多い。これは母父シンボリクリスエス、さらにその奥にある気性難の因子が遺伝していると推測した。
  • 晩成の必然性 気性が荒く、操縦性が低い場合、競馬を覚えるのに時間を要する。この手の種牡馬は往々にして晩成傾向に出る。

即ち、「早期から完成度の高い競馬」を求められる2歳夏の新馬戦において、苦戦するのは織り込み済みである、という見立てだ。

2. 「ダービー馬」という幻想と呪縛(エムイシ考察)

エムイシは、血統と馬体の観点から、「適性のズレ」を指摘した。

レイデオロを「ダービー馬」として、ディープインパクトの後継のような「芝の王道・キレ味」を求めていた配合が多かった。
しかし、私の見解は真逆であった。

  • 筋肉の塊と立ち肩 募集馬などで見る産駒の姿は、筋肉量が豊富で、可動域が狭く、歩きが硬い。これは典型的な「ダート馬」や「パワー型マイラー」の特徴である。
  • 藤沢マジック レイデオロ自身、上がり最速を記録したのは東京ではなく中山がほとんど。東京競馬場のダービーや天皇賞・秋を勝てたのは、名将・藤沢和雄調教師が「パワー型マイラー」を「クラシック馬」に仕立て上げた“藤沢マジック”によるものではないか?
  • 血統の重厚さ キングカメハメハ、シンボリクリスエス、ウインドインハーヘア。これらは全て「パワー」と「スタミナ」の因子であり、現代日本の高速馬場に必要な「軽さ」や「キレ」が足りていない

当時の結論:真価は「ダート」と「古馬」にあり

「ポストディープインパクト」「ダービー向き」と言われた当時の論調に対し、当時の我々が出した結論はこうだ。

「レイデオロ産駒を、芝の切れ味勝負の馬だと思って育成・馬券購入をしてはいけない。 本質はミエスク的なスピードのあるパワー型であり、世間の評価よりはダート路線、あるいは古馬になってからである」


あれから数年。 果たしてこの「予想」は当たっていたのか、それとも大外れだったのか。 最新のデータを用いて、答え合わせを行っていこう。

まずは結論

結論から書けば、レイデオロはTT型ステイヤー(の可能性が非常に高い)であった。

TTとは、ミオスタチンと言う筋肉の質を構成する遺伝子の事。
CまたはTの2種類があり、2個セットの遺伝子で、両親から1つずつ受け継ぐ。

C…パワー↑ スタミナ↓
T…パワー↓ スタミナ↑

CC…ハイパワーで燃費悪。短距離向き。早熟傾向。
CT…バランス型。
TT…燃費良いがパワーダウン。長距離向き。晩成傾向。

遺伝子検査結果などの確定情報は見つけられなかったが、発表されている産駒のミオスタチン遺伝子や競走成績からほぼ確定的と思われる。

つまり、パワー(ダート)タイプの晩成という我々の予想は50%当たりで50%外れと言ったところか。

我々の想定より馬体の薄い馬が多く、想定通りキレない晩成型であった。

また捌きが硬いのは、筋肉があればダート型だが、薄くて硬いのはステイヤーの代名詞だ。

TT遺伝子

TTとはT遺伝子を2つ持ち、筋肉が薄く、持久力に優れる特性を持つ。
TTが分かりやすい馬がディープインパクトであり、小さく、薄く、長距離で強かった。

一方で絶対的な筋肉量が乏しくダッシュ力に劣るため、ダートや短距離では苦戦する。
あのディープインパクトでも産駒は短距離とダートG1馬は1頭ずつしか出ていない。

ではそれらの裏付けとなるデータを見ていこう。

レイデオロ産駒 出走データ

※2025/12/11時点

【芝コース】距離別成績

1400m未満
・勝率 10.8% / 3着内率 20.8%
1400m〜1800m
・勝率 9.1% / 3着内率 27.8%
1800m〜2200m
・勝率 9.8% / 3着内率 25.2%
2200m〜2600m
勝率 13.0% / 3着内率 32.4%
2600m超
・勝率 20.0% / 3着内率 60.0% ※サンプル少数

​【芝・トータル成績】
出走数:996走​
勝率:10.0%​ 
3着内率:26.6%

【ダートコース】距離別成績

1400m未満
勝率 2.5% / 3着内率 11.4%
1400m〜1800m
・勝率 7.8% / 3着内率 24.1%
1800m〜2200m
・勝率 8.1% / 3着内率 18.9
2200m超
・勝率 0.0% / 3着内率 0.0% ※サンプル少数

​【ダート・トータル成績】
​出走数:418走
​勝率:6.7%
​3着内率:20.8%

明確にステイヤーであった。
2200m以上の成績は非常に安定しており、3000m級重賞でも好走している。
芝短距離の勝率が良く見えるが、13勝中11勝が1400mであり、1200mの勝利は2つ。

またダートも距離がある方が安定感が増し、短距離では悲惨である。

このことから以下のことが傾向として明示される。
・パワー不足
・スタミナがある

これがまさにTT型の特徴である。

TTの利点、欠点

TT型であるということは、レイデオロから子供に受け継がれる遺伝子の1つが確実にTになるということ。

母父ディープインパクトとの相性が最悪と言われているが、ディープもミオスタチンTTのため、レイデオロ×ディープ産駒はTT率75%以上になってしまうのだ。

       ディープTT × 繁殖牝馬??
レイデオロTT   └────T?────┘       
   └──TT率75%以上───┘

TTの子は確定でT因子を持つ。
母がディープ産駒ならTを1つ以上持つことが確定しており、
レイデオロ×母TTなら子は確定でTTになる。

TT自体が悪いわけではないのだが、2歳戦はマイル以下が主流だし、仕上がりが速いほうが好まれる現代では、TTは配合で補強しないといけない。

かのディープインパクト(TT)が母米国系の相性が良かったのは、米国はスピードと早熟性に優れた馬(C遺伝子)が多く、TとCでバランスが取れたからだ。

TTでスピードがある馬は強いのだが、そんな馬はごく一握り。
それ以外の大多数は仕上がりが遅い鈍足となってしまう。

また、筋量不足で馬体重が増えにくい、大柄に出やすい牡馬ならリカバリーできるが、牝馬は見た目より軽い馬が多い事も牝馬の勝ち上がり率(5%以下)に繋がっていると思われる。

一方で、牡馬の勝ち上がり率は40%を越えており、レイデオロのツボを抑えた配合であれば重賞でも躍動している。

そこを紐解いていこう。

配合の傾向

早速レイデオロの獲得賞金上位10頭を確認しよう。

画像

母父一覧
★マンハッタンカフェ 2頭
☆ハーツクライ
★エンパイアメーカー 2頭
★ゼンノロブロイ
★ウォーエンブレム
☆アグネスタキオン
 ネオユニヴァース
 Unusual Heat

★ リボー・ラトロワンヌを持つ
☆ 母母が★持ち

また、★☆がない馬には牝系にヌレイエフ(≒フェアリーキング)や、ノーザンテースト≒ヴァイスリージェントが必ず入っていた。

レイデオロは立ち肩で、立ち肩を継承しやすいリボーまたはラトロワンヌの影響が強い配合相手が目立つ。特に上記馬たちは持っているだけでなく、強く継承している馬たち。

またこの2頭はパワータイプの後継馬が多く、馬体が薄く出がちなレイデオロに必要なパワーを与えてくれる。

また、ヌレイエフ≒フェアリーキングノーザンテースト≒ヴァイスリージェントも血の本質はパワーと持続力


あくまでも「キレを足す」方向ではなく、「レイデオロの形質を保ったままパワーアップ」が良いことがわかる。

配合はバランス

「ディープインパクトとの相性が悪い」「それはウインドインハーヘアクロスがダメだからだ」と言われているが、そんな中でもアドマイヤテラが走っている。

画像

確かにウインドインハーヘアは「立ち肩とパワー」と対極にある血統で、このクロスが走らないというのも妥当性がある。
アドマイヤテラがなぜ走ったかを紐解くと、牝系にデインヒル(パワースプリンター、リボー持ち)とクロフネ(パワーマイラー、ヴァイスリージェント持ち)を持ち、ウインドインハーヘアを持ちながら補完ができている。

パワーにも質があり、個人的な大まかな認識は以下の通り
↑ダート的なパワー(高出力での持久力)
・ダートを力強く走る
・スプリントを駆け抜ける
・重馬場を走る
・長い直線で伸び続ける
・坂を登る
・短い直線でキレる
↓芝的なパワー(一瞬の爆発力)

主に出力時間によって大まかに区分している。
どれが優れていると言うことはないが、両端ほどC的真ん中ほどT的なイメージ。

レイデオロの場合は、下に寄せると絶対的なスピード不足が頭打ちとなり活躍が難しい。
その為、上に向けた配合が向いている。

上記のエンパイアメーカー、ゼンノロブロイ、ウォーエンブレム、アグネスタキオンはダート的な血統だし、デインヒル、クロフネも然り。

マンハッタンカフェもステイヤーでありながらリボーのパワーを継いでいるため、産駒は短い距離(ジョーカプチーノ)やダート(グレープブランデー)で強い産駒も出した。

ニックスとは補完と強化

よく「〇〇と☓☓はニックスだ」と言われる。
それは魔法でも、ましてやカップリングでもない。

  • 「スピードが足りない父に、スピードのある母父を」
  • 「小柄な父に、大柄な母父を」
  • 「硬い父に、柔らかい母父を」

こういった条件を組み合わせていったときに、「スピードが合って、大柄で、柔らかい」血統を持った馬が見つかることがある。それがニックスであり、理由がある。

また、「形質」が似ていれば良いので、血統構成が異なっても同じような方向性ならニックスになりうる。
解りやすいのがディープインパクトのニックスのストームキャットアンブライドルズソングだろう。

この2頭の血統構成は全く異なるのに、母父として同じように芝の中距離帯で驚異的な強さを見せた。

これは両者がディープインパクトの求める「スピードがあり、大柄で、柔らかい」という特性を持っていたからである。


今回のレイデオロも同様に「パワーとスピードを強化、ダート的、立ち肩」という形質を求めていたことがわかった。
方向性さえ掴んでしまえば、あとはその条件の中から良質な産駒を探していくことになる。


レイデオロは種付け料200万円まで落とされてしまったが、牡馬で上記血統を持っている馬に限れば1000万級のポテンシャルを持っていると思っている。
傾向が見えてきた今こそ、不当な評価を受けたダービー馬の子を格安で買うチャンスなのかもしれない。

まとめ

​一言で言えば、レイデオロは典型的なTT型ステイヤーだ。

持久力に優れる反面、絶対的な筋量に乏しくダッシュ力で劣る。
むしろ、ゆったり走ればどこまでもバテないという、古き良き日本のステイヤーである。

芝長距離の安定感に対し、短距離やダートでの低迷は、このスタミナ偏重の形質を裏付けている。

配合のツボは、薄く出がちな馬体に「立ち肩のパワー」を補完することである。

「キレ」を求めるのではなく、レイデオロのスタミナを活かすためのパワーアップこそが、「走るレイデオロ」への最短距離と言える。

​🐎馬券ポイント✅️

  • 芝2200m以上の長距離戦。 距離延長でパフォーマンスが跳ね上がるステイヤー特性を狙う。
  • 短距離・ダート短距離は軽視。 筋量不足による加速力のなさは、この条件では致命的。
  • タフな消耗戦。 燃費の良いTT型の強みが出る条件でこそ買いである。

​🐎一口馬主ポイント✅️

  • 母父に「パワー型」の血を。 エンパイアメーカー、ウォーエンブレム等のダート的・パワー的血統との相性が良い。
  • リボー・ラトロワンヌの注入。 立ち肩を継承し、非力さを補う配合が成功の鍵となる。
  • 母父ディープインパクトは慎重に。 TT遺伝子の重複リスクを、牝系のパワー(デインヒル、クロフネ等)で相殺できているかが重要である。

M石土井

ゴルシ産駒研究者

一口馬主を京都サラブレッド、DMM、ノルマンディーなどで楽しんでいる、ゴルシ産駒研究者。noteにてゴルシ産駒にまつわる投稿を行っている。血統分析に重きを置くスタイルで、代表出資馬はドライスタウトやグランベルナデット。ゴールドシップ産駒ではオルノアやヴェルミセルなどに出資している。


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