日本でシラユキヒメの白毛一族が活躍するようになってもうかなりの時が過ぎた。
一昨年の阪神JFではソダシが勝利し、世界初の白毛G1馬となった。
勢いそのままに桜花賞も制し、白毛馬初のクラシック制覇。
ソダシ以外にも重賞6勝のメイケイエール、芝ダートで重賞制覇のハヤヤッコ、ファンタジーS3着でソダシの全妹ママコチャなどシラユキヒメ一族の活躍馬はここにきて増加の一途をたどっている。
シラユキヒメの一族は当然ながら白毛の馬が多く目立つということもあるが、競走馬としての実力も一級品で世間の注目を集めている。
強さの根幹にはなにが眠っているのだろうか?
競馬王10月号ではシラユキヒメ牝系についての特集が掲載されている。
■白毛遺伝子とは
白毛馬が産まれるメカニズムはKIT遺伝子の変異が原因であり、このことは競走馬理化学研究所の戸崎晃明博士が突き止めている。
自身のKIT遺伝子が突然変異し白毛になるパターンと親から白毛遺伝子Wを継承するパターンがあるが、シラユキヒメは前者でその子孫たちは後者だ。
馬は32対64本の染色体を持っているが、この中の3番染色体に白毛遺伝子Wがある。
それと対立する非白毛遺伝子をwとしよう。
シラユキヒメ牝系の白毛の繁殖牝馬たちは親からWを継承した白毛であるため、Wwという組み合わせ。
従って産駒はWを継承すれば白毛に、wを継承すればそれ以外の毛色になるというメカニズムなのだ。
ちなみに白毛遺伝子Wはすべての毛色遺伝子に対して優性である。
従ってメンデルの法則の中の分離の法則に則れば白毛の馬の産駒は50%の確率で白毛になる。
そして白毛遺伝子は一部例外を除いて致死遺伝子と連鎖するという特性も持っている。
つまり白毛種牡馬×白毛繁殖牝馬の組み合わせではWがダブルで入る可能性を孕んでおり、そうなった場合は致死遺伝子の連鎖、そしてホモ化により産駒は競走馬となることができない。
果たしてこの白毛遺伝子とシラユキヒメ牝系の強さには何か関係があるのだろうか。
■活力の根幹はシラユキヒメのミトコンドリア!?
私が血統において牝系がとても重要であると説く際の大きな根拠となっているのがミトコンドリアの存在だ。
ミトコンドリアの主な働きは好気呼吸。
好気呼吸とは酸素を使ってアデノシン三リン酸を生産すること。
アデノシン三リン酸は通称『生体のエネルギー通貨』とも呼ばれている。
体内でエネルギーの分配を行う物質であり、要は運動をするにしても何をするにしてもこのアデノシン三リン酸は必須というわけだ。
そしてこのミトコンドリアのDNAは母系遺伝するという特徴を持ち合わせている。
ソダシとメイケイエールは毛色が違う。
ソダシはW遺伝子を持っているため白毛、メイケイエールは持っていないため非白毛である。
しかし上記の通り2頭ともシラユキヒメのミトコンドリアのDNAは共通して持っている。
こう考えると白毛遺伝子Wと競争能力に関係する遺伝子が連鎖しているというより、共通して優秀なミトコンドリアのDNAを有しているためシラユキヒメ牝系は活躍するのではないかという仮説が立てられる。
シラユキヒメが誕生する以前、このファミリーはそれほど繁栄をしていたわけではなかった。
では何故シラユキヒメ以降活躍馬を多く輩出するに至ったのだろうか。
そのヒントとなりそうなのがミトコンドリアのDNAの変異スピードだ。
ミトコンドリアのDNAは通常の遺伝子に比べて10倍ほど早く変異することが近年の研究でわかってきている。
つまりシラユキヒメのあたりからミトコンドリアのDNAも変化が起こっていた可能性が考えられる。
シラユキヒメの孫世代以降から活躍馬が多数輩出されていることも面白い一つのポイントだ。
直仔でもユキチャンが関東オークスを制するなど、一定の活躍は見せていたが、それ以降の世代ではユキチャン(孫にメイケイエール)、マシュマロ(直仔にハヤヤッコとピオノノ)、ブチコ(直仔にソダシとママコチャ)と別々の母馬が同時多発的に活躍馬を出している。
それぞれ分岐したはずの牝系が同時多発的に活躍を見せることはサラブレッドのファミリーを注意深く観察していればよくみる光景ではあるが、根幹にはボトムラインを通して共通するミトコンドリアの存在があるのではないかと疑ってしまいたくなる。
■今後のシラユキヒメ牝系
もしミトコンドリアのDNAがシラユキヒメ牝系の根幹にあるのであれば、今後もこのファミリーは伸びていく可能性が高いのではないかと考えられる。
とはいえ本記事執筆時点(2022/9/23)ではこの一族のG1馬はソダシ一頭のみ。
まだ名牝系と呼ぶには物足りないのも事実。
来週末には秋の電撃戦G1スプリンターズSが行われる。
そこにはシラユキヒメ牝系きっての人気者メイケイエールが大本命として出走を予定している。
メイケイエールがシラユキヒメ牝系のニューヒロインとなることを期待したい。
■可憐な二頭の人気者
ソダシとメイケイエールは今の競馬界でも特別注目される人気者だ。
そんな可愛くて強い2頭の写真集が出版されている。
弊サイトではメイケイエール号の写真集『メイケイエール写真集 一生懸命、全力疾走』出版を記念して、出版元のガイドワークス編集部に取材をさせていただいた記事も掲載している。ぜひチェックしてみてほしい。
ライター:貴シンジ
牝系研究家・競馬ライター
牝系こそがサラブレッドの根幹であると考え、日夜サラブレッドファミリーの研究を行う。SPAIA競馬では重賞予想記事も連載中。個人ブログ『牝系研究者の一口馬主メモ』では月間11万PVを達成した。
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[…] 最強の白毛遺伝子!?シラユキヒメ牝系の強さにせまる […]
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