今回はYGG2023年募集馬の注目馬を検討しながら、相似インブリードについて学んでいく記事を執筆してみました。
ぜひ最後までお読みください。
ブロードハーストの22とは?
YGGより募集要項が発表され、一部界隈では高橋康之厩舎に熱狂し、血統ファンからはこの血統はやばいと話題騒然の子です。
血統をシンプルに見ていくと、濃いインブリードが目に入ります。
サンデーサイレンス3×4×4*、血量25%はかなり濃い。
(*血統表中に、同一の馬がいるときに使われる表現方法。本馬ではサンデーサイレンスが3代前・4代前・4代前にいることになる。)
しかし
・この馬の本当に見るべき点はサンデーサイレンスではないのでは?
・また、その理由を伝えるにはあまりにもややこしすぎる。
ということで今回この記事を書いてみました。
血統の勉強を始めた人、これまで全く触れていなかった人向けに、「こんな考え方があるんだよ」といったハウツー本を目指して書いていきますので、最後まで読んでいただけると幸いです。
*なお、血統の見方に関してはいくつかの流れがあり、私は望田潤氏・亀谷敬正氏の影響を強く受けています。
そもそもインブリードとは
*インブリードの仕組みやシステムの話ですので、説明不要の方は次の段落まで飛ばしてください。
インブリードとは・・・
血統表で5代前までに同一の祖先を持っているような配合のこと。近親交配ともいう。サラブレッドの場合、好んで近親配合を行なう場合が多い。
表記する場合は○○(馬名)の3×4などと表わし、数字は世代数を示す。ナスルーラの3×4、といえば3代前と4代前にナスルーラが入っていること、5×5×5といえば、5代前に3回入っていることを示す。共通祖先の望ましい形質を固定させることを目的としているが、逆に隠れていた不良形質が現れる危険性も高くなる。JRA HPより主に5代血統表の中に同一の馬がいる場合に使われることが多いですが、血統マニアの世界では8代前やもっと前の世代まで遡ることが多いです。
血量の計算方法
血量とは、血統表中の専有割合で、計算方法は「1÷縦のラインにいる馬の数」で求めることができます。
例えばブロードハースト2022で見ると…
3代前にサンデーサイレンスが1頭。
3代前には8頭の馬が並んでいるため、1÷8=12.5%
同様に4代前(16頭)の中に2本いるため、1÷16=6.25% 6.25%×2=12.5%
12.5%+6.25%+6.25%=25%と求めることが出来ます。
つまり、血統表中の1/4がサンデーサイレンスが占めるという事ですね。
毎回計算するのも面倒なので、以下の数字を覚えてください。
2代前 25%
3代前 12.5%
4代前 6.25%
5代前 3.125%
この数字を覚えてしまえば、あとは出現回数と場所に応じた簡単な足し算をするだけで血量の計算ができます。
一般的には3×4の18.75%が奇跡の血量と言われ、古くはトウショウボーイ(ハイペリオン3×4)や、最近ではデアリングタクト(サンデーサイレンスの4×3*)が有名です。
(*血統表の上に出現した順番に記載するのが一般的なため、デアリングタクトは4×3と書かれます。)
インブリードは良い?悪い?
強い近親交配は敬遠するべきという話も多く、実際に、濃いインブリードの馬は虚弱体質になる事が多くあります。
また、往年のダビスタファンであれば必ず
「ナスルーラのクロスですか…気性難が心配です…」
と牧場長に嫌な顔をされたことがあるでしょう。
強い馬の代名詞としても、虚弱な馬の代名詞としても使われるインブリード。
実際のところはどうなんでしょうか?
単純な例でいうと
・キレを強化する
・脚が曲がりやすい
この血統をインブリードで上手く強化できれば、キレッキレの馬になる確率は上がる一方、脚が曲がりすぎて怪我をしてしまう可能性も上がるわけです。
また、特定の病気に弱かったり、虚弱体質になりやすいとも言われます。
濃いインブリードが避けられている理由はそのような例からです。
しかし、リスクとリターンを天秤にかけて、例えば脚が真っ直ぐで丈夫な母であれば、多少のリスクを背負ってもそのインブリードを試す価値はあるでしょう。
そのため、配合とは単純に1つの要素を伸ばすだけでなく、特定の馬同士の組み合わせ(キレるけど脚が曲がる馬×ズブいけど脚が丈夫な馬等)を行うことで、大きな成果(キレるし丈夫)を出すことが目的となります。
近代欧州競馬の最強馬エネイブルはサドラーズウェルズの3×2ですし、今年のクラシックをわかせたファントムシーフは実質2×2の近親交配です。
1800年代には既に「強い馬を作りたければインブリード」という認識があったようで、現代に至るまで成果を出しています。
なので、いたずらにインブリードをしても意味がないし、アウトブリードだから必ず丈夫ということもありません。
インブリード・アウトブリードの何が正解ということは、結果論ですし、うまくいくかどうかも確率です。
しかし、その確率を上げるため、能力の方向性を定めるためにあるのが配合です。
インブリードの話はここまでで終わりです。
ブロードハーストの22が持つ血統の特異性
改めてブロードハースト2022の血統を見ていきましょう。
サンデーサイレンスが濃いのは前述のとおりですが、それ以上にヘイロー(Halo)が濃い。
ヘイローはサンデーサイレンスの父ですので、サンデーサイレンスが濃いならヘイローも濃いのは当然です。
しかし、血統を深掘りしていると、5代血統表では見えない範囲でサンデーよりもヘイローの方が「特濃」と言ってしまいたいほどの濃度であることがわかっていきます。
それを紐解くキーワードは「相似インブリード」です。
相似インブリード(相似血統)とは
説明に入る前に、実際の例を上げて見ていきましょう。
ヘイロー(Halo)
ヘイローは日本競馬に多大な影響を与えた種牡馬です。
直子では超絶大種牡馬サンデーサイレンスを排出し、その他にもタイキシャトルなどがヘイロー系です。
牝系に入っても非常に強い影響力を与えており、ヘイロー3×4を持つハルーワスウィートは、シュヴァルグラン・ヴィルシーナ等を排出した日本最高峰の牝系になっています。
ヘイローの武器は圧倒的なスピードと爆発的なキレと俊敏性、そして、柔らかさです。
ヘイローの構成血統で重要な点は
・ロイヤルチャージャー(父父父)
・ファラモンド(母父父)
・マームード(母母父)
・サーギャラハッド(父母母父)
これらを覚えていてください。
サーアイヴァー(Sir Ivor)
サーアイヴァーはイギリス2冠馬でディープインパクトの母父アルザオの、更に母父で、柔らかさと爆発的な瞬発力を伝えます。
ディープインパクトのあの爆発的な瞬発力の根源はサーアイヴァーにあると言えるでしょう。
サーアイヴァーの構成血統で重要な点は
・ロイヤルチャージャー(父父父)
・マームード(母父父)
・サーギャラハッド(母父母父)
・ファラモンド(母母父)
これらになります。
ヘイローとサーアイヴァー
ここまで見ていただいてわかるように、2頭の血統は非常に共通点が多いことに気がつくでしょう。
・ロイヤルチャージャー
・マームード
・サーギャラハッド
・ファラモンド
一概には言えませんが、近い血統を持っている馬は同じような形質を伝えやすいです。
例えば、ニックスで有名なディープインパクト×ストームキャットの配合(3/4同血)の牡馬たちは、このようなメンツになります。
・ダノンキングリー
・リアルスティール
・サトノアラジン
・キズナ
・エイシンヒカリ
この配合では、1600~2000mの芝を得意とする形質がよく出ると言えるでしょう。
また、ディープ産駒にしてはパワー型の印象もあるでしょうか。
例えば、20年後にこの馬たちが血統表内で出会う際には、ディープインパクトとストームキャットのインブリードと言うより、マイルの形質を強く出す相似インブリードとして認識されることでしょう。
このように、ある程度近しい血統であれば、異なる馬でも同質の能力を伝えるインブリードと認識できます。
つまり、ヘイローとサーアイヴァーも相似な血統を多く持ち、同じような形質を伝えます。
そのため、この両方持つ馬は「へイロー的な要素(スピード・キレ・俊敏性・柔らかさ)を持った相似インブリード」と判断しても良いということです。
その2頭に加え、更に伝えたいのがレッドゴッド。
レッドゴッド(Red God)
グラッシンググルームなど、欧州を中心に活躍馬を多く排出した欧州系ナスルーラ。
しかし、その血統構成は実にアメリカ的な母の影響を多く受けています。
レッドゴッドの構成血統で重要な点は
・ナスルーラ(父)
・ブレンヘイム(父母父)
・ファラモンド(母父父)
・ブルドッグ(母母父)
これだけ見ると、ヘイロー・サーアイヴァーとは
「ファラモンドしか共通してない!ぜんぜん違う血統だ!」
と言われそうですが、2頭の血統とレッドゴッドの血統表をもう一度見比べてください。
答えは少し下に書きます…
正解は…
まず、ブルドッグとサーギャラハッドは全兄弟です。
マームードの父はブレンヘイムであり、親子です。
そして、ナスルーラ。
ナスルーラとロイヤルチャージャーは
父 ネアルコ
母/母母 ムムタズべグム
父が同一の、叔父甥の関係にあたります。
つまり、こういうことです。
ナスルーラ ≒ ロイヤルチャージャー(同父の叔父甥)
ブルドッグ = サーギャラハッド(全兄弟)
ブレンヘイム ≒ マームード(親子)
ファラモンド
*「≒」は、ほとんど等しいという記号で、血統的に近い馬を表すためによく使われる
このように、この3頭は同一の血統が数多く、濃く共通した、相似血統であることがわかります。
つまり
レッドゴッド≒ヘイロー≒サーアイヴァー
この図式が成り立ちます。
このヘイロー的な相似インブリードを最大限発現したのがイクイノックスです。
これを見ただけではヘイローの4×4ですが、
アルザオの母父 サーアイヴァー
グッバイヘイローの母父 サーアイヴァー
ダンシングブレーヴの母父 ドローン
これらも相似インブリードしているため、
ヘイロー≒サーアイヴァー≒ドローンの4×6×5×4×5
という、かなり濃いヘイロー要素を含んだ馬になっています。
相似インブリードの視点から見たブロードハーストの22
では、ここまでの話を踏まえてブロードハースト2022の血統を見ていきましょう。
実は、父シュヴァルグランが教科書に載せたいほどのヘイロー的名血です。
私が3大神Halo牝馬と崇める馬の内、2頭が既に血統表に含まれています。
クードフォリーとグロリアスソングなんですが…
それを話し出すと1万文字では収まりきらないので自重します。
それで、先程の話を前提にこの血統表を見ると
ヘイロー 3×4×5 + レッドゴッド 5
ということがわかります。
ヘイローはサンデーサイレンス的なキレ味ばかり注目されますが、ヘイロー自身の持ち味は機動力。
キレと機動力は似ているようですが少し違います。
わかりやすく言えば、
キレ …長い直線で最高速度を出す能力
機動力…コーナリングや短い直線で加速する能力
このようなイメージでしょうか
ヘイロー的なわかり易い例は、イクイノックスの有馬記念と宝塚記念を見てください。コーナリングで持ったまま捲くっていくあの感じが、まさにヘイローです。
この機動力に加え、シュヴァルグランの能力の本質はトニービン・ヌレイエフ・ブラッシンググルームの持つナスペリオン*的な豪快なキレを発揮して古馬王道路線で常に上位争いをしてきました。
*ナスペリオン…ナスルーラ+ハイペリオン。持続的な長い直線向きの野太い末脚。代表格はドゥラメンテ。
では、続いて母ブロードハーストを見ていきましょう。
こちらはブロードアピールの持つ快速血統を刺激しつつ、サンデーサイレンスで日本適性を昇華させようとした配合。
例に漏れずヘイロー血統を探すと
ヘイロー 4×4 + レッドゴッド 6 + サーアイヴァー 6
このようになります。
それに加え、サンデーサイレンスの父父ヘイルトゥリーズンや、父父父ターントゥがそこかしこに散りばめられているのが特徴。
2頭を合計し、ブロードハースト2022の血統表で数えると…
ヘイロー 4・5・6 × 5・5
レッドゴッド 6×7
サーアイヴァー 6
ヘイロー≒レッドゴッド≒サーアイヴァー 4×5×6×5×5×6×7×6
これはもう特濃ですね。
サンデーサイレンス 3×4×4 25%も相当濃くて目を奪われてしまいますが、このように血統表を分解・深掘りしていくと新たな視点で血統を楽しむことが出来ます。
もっともっと深掘りすれば、アルマームードという馬の存在がとてつもなく大きいのですが、それはまた今度ということで。
個人的な血統考察
ここまでは血統の見方について、題材としてブロードハーストの22を見てきましたが、最後に個人的な考察をして絞めにします。
血統
血統構成の根幹となるのは間違いなくヘイロー。
両親とも
・ヘイロー的な要素をふんだんに盛り込んでおり
・ナスペリオンの風味を持ち
・リボー系スタミナを覗かせている
よく似た相似配合と言えます。
適正
父シュヴァルグランは御存知の通り国内外の中長距離の芝路線で奮戦していました。
母ブロードハーストは怪我で引退したそうですが、ダートとはいえ中距離で勝ち上がっており、足元の不安からダートを使っていたと想像もできますので、本質的には芝の中長距離が主戦場だったのでしょう。
これらのことからも、父母と同じく主戦場は芝中長距離。
更に、母のナスペリオン感は薄く、ヘイロー的要素が強い。
また、スタミナ強化型リボーのクロスや、機動力増強のトムフール≒スプリングラン(レッドゴッドの母)を持つことから、主に中山や内回りで本領を発揮するタイプではないでしょうか。
もしスピード感に難があっても、母のようにダート中距離帯でもやれそうなポテンシャルはあります。
馬体
YGGのツイッターに載せられた動画しか馬体面の情報がありませんが、その動画を見る限りでは・・・
・シルエットは父そっくり
・サンデーサイレンスの影響の強そうな曲飛
・シュヴァルグランとよく似た胸前の筋肉の付き方と肉質
・トモの容量や肉質も良さそう
・全体のバランス感はいい
これくらいでしょうか?
かなりボテッとしているので、もう少し絞った歩き映像を見たいですね。
すごく極端なサイズということはないでしょうが、まだ即尺も出ていないので色々待ちたいところです。
あと、気をつけるべきは、やはり体質。
インブリードの濃い馬は頓挫しやすい というのは統計的にも出ており、ブロードハーストの22は見た目以上にキツいインブリードを持っていることはここまで書いた通り。
母も数度怪我をしているようですので、ここは気を付けておきたいポイントです。
まとめ
正直に言うと、この時期で判断するのは早すぎる馬だと思います。
ただ、990万という価格、高橋康之という神調教師、血統へのロマンを考えると、行ってしまいたくなる馬ですね。
私は………
ベーシック会員なら間違いなく行ってますね!
(未だにライト会員)
M石土井
ゴルシ産駒研究者
一口馬主を京都サラブレッド、YGG、広尾、DMM、ノルマンディーなどで楽しんでいる、ゴルシ産駒研究者。noteにてゴルシ産駒にまつわる投稿を行っている。血統分析に重きを置くスタイルで、代表出資馬はドライスタウトやグランベルナデット。ゴールドシップ産駒ではオルノアやブルーローズシップなどに出資している。
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