■ユニークな名前はファンを楽しませるため
「オマワリサン」「ハハハ」「カゼニタツライオン」これらは全て競走馬の馬名だ。
「逃げる逃げるオマワリサン」というフレーズは競馬ファンの間ではもはや語り草となっているが、競馬に興味がない人が聞いても度肝を抜かれるだろう。
前述の3頭の馬は小田切光オーナーとその父小田切有一オーナーの所有馬で兄妹だ。ユニークな馬名には競馬ファンを楽しませたいというお二人の思いが込められている。
小田切光オーナー(以降小田切オーナー)の現役所有馬で代表的な一頭と言えばカラテだろう。カラテは今秋行われた天皇賞(秋)、ジャパンカップに出走し、惜しくもG1タイトルには届かなかったがその名の通り力いっぱいの走りを見せてくれた。菅原騎手とのコンビはファンからの人気も高い。昨年の東京新聞杯、今年の新潟記念を制しており来年の更なる飛躍が待たれる一頭だ。
■小田切オーナー所有馬の名付け親になれるチャンス
ファンを大切にする小田切オーナーはSNSでの発信も積極的だ。これまでも一般の競馬ファンでは中々見ることができない貴重な場面のアップやオリジナルグッズのプレゼントなど、数多くのファンサービスをSNS上で実施。
そんな小田切オーナーが今回は更なるファンサービスとしてTwitter上で1歳馬の馬名を募集中だ。現2歳馬のイツモハラペコも同様の企画で命名された馬でありこの時もファンの間での反響は大きかったが、今回はすでに当時の3倍程度の応募があるようだ。
募集されている馬は父キンシャサノキセキ、母ナミノリゴリラという血統の1歳の牡馬。
ナミノリゴリラという名前でお分かりかもしれないが、母も小田切オーナーの所有馬だ。ゴリラのイメージというと「力が強い」「身体が大きい」などが思い浮かぶだろうか。当然ゴリラにもメスはいるわけだが、牝馬の名前にゴリラというのは中々思いつかない。競馬新聞で「ナミノリゴリラ」「牝」の文字が目に入るとクスっとしてしまう。
今回はそんなナミノリゴリラの現役時代を振り返りつつ、早くも注目されているナミノリゴリラの21の未来を想像したい。
■ナミノリゴリラの現役時代
先行力が武器のナミノリゴリラ
ナミノリゴリラは14年8月23日新潟競馬場2歳新馬芝1200mにてデビュー。初めてのゲートは五分のスタートを切ったが内の馬たちも速く、後方からの競馬となり8着と敗戦してしまった。
1か月後の2戦目は早くも変わり身を見せ勝ち上がりの兆し。スタートこそ出負けした形だったが最内枠を活かしてスルスルとポジションを上げていき2着でゴール板を駆け抜けた。
続く次走は12月7日新潟ダート1200m。初のダート戦だったがこのレースではスタートを決めて先行競馬で3着となる。芝、ダートどちらでも走れるところを見せたナミノリゴリラの勝ち上がりは近いものだと思われたが、そこから6走で2着が1回、3着2回と惜しい競馬を見せるものの中々勝利に手が届かない。
初勝利は3歳未勝利戦終盤となるデビュー翌年の9月6日新潟ダート1200m。好スタートから逃げ馬を見る形の2番手で進めたナミノリゴリラは直線で先頭に立つと、一旦は3番手から差してきた馬に交わされるもそこから伸び返して見事1着でゴールイン。1年前にデビューした地、新潟での嬉しい初勝利となった。
得意の新潟で波に乗る
夏の新潟の初勝利で波に乗ったナミノリゴリラは昇級初戦を5着、2戦目で2着とし1勝クラスの突破も時間の問題かと思われた。しかし再び長いトンネルに入ってしまう。寒くなるにつれて成績が下降し、二桁着順が続く。翌年は得意の夏の新潟でも休み明けが響いたのか殿負け。障害戦を使われたこともあった。
転機が訪れたのは初勝利から1年半後、4月の中山ダート1200m。障害戦を一度使ったのが良かったのか絶好のスタートからハナを主張し9着。ペースがかなり早かったため最後は一杯になってしまったが、ナミノリゴリラにとっては6戦ぶりの一桁着順で復調気配を見せてくれた。
そこから気温の上昇も手伝ってか成績も向上し、中1週の福島での競馬では3着。再び中1週で迎えた得意の新潟ダート1200m。この日はスタートが特別速かったわけではなかったが、持ち前の先行力でハナを取り切って初勝利の地で見事2勝目をあげた。
ペースもハイペースで決して楽な展開ではなかったが、直線では井上騎手の叱咤激励に応えて後続の猛追を凌ぎ切った。この勝利がナミノリゴリラにとってはキャリア最後の勝利となり、その後は1000万下(現2勝クラス)を3戦して引退した。
ナミノリゴリラは先行策を得意としていたが、スプリンターとして抜群にスタートが速かったわけではない。どちらかと言えば持ち前のダッシュ力でレースの流れに乗り、気づいた時には好位につけているというようなタイプ。また春になり暖かくなると徐々に成績が上昇し、その勢いのまま得意の新潟で勝利するという馬だった。
まさにナミノリゴリラの名前がぴったりだ。
■ナミノリゴリラ×キンシャサノキセキ
今回小田切オーナーから馬名が募集されているナミノリゴリラの21の血統について簡単に触れておきたい。
父キンシャサノキセキは現役時代高松宮記念連覇、阪神C連覇など芝スプリントにおいて活躍。
初重賞制覇は5歳時の函館スプリントSと意外に遅いので晩成のイメージがあるかもしれない。しかし本馬は南半球産馬であるため日本の同世代の馬たちより約半年生まれが遅い。そのハンデを背負いながらも2歳の新馬戦で勝ち上がり、3歳でOP競走を制した。南半球産馬の若駒が早期からこれだけ活躍することは容易でなく、大器の片りんを見せていた。
産駒は芝ダートどちらも出すタイプだがスピードを武器にスプリントからマイルくらいを得意とする馬が多いのが特徴だ。
ナミノリゴリラの牝系は本馬の3代母シアラスダンサーが日本での牝祖。本馬の祖母アドマイヤバレー(父サンデーサイレンス)とその全妹カレンバレリーナの2頭を中心にファミリーの枝を伸ばしてきた。
配合次第で芝ダートどちらの馬も出せるのはサンデーサイレンスの万能性の賜物かもしれないが、元々アメリカのダート戦線で活躍馬を輩出していたファミリーだけにダート適性は高い。また切れるのではなく持続性能で粘り切るタイプが多いのも特徴だろう。
日本ではまだ重賞勝ち馬を輩出できていないが、8代母Miss Dolphinの産駒にはウッドメモリアルS(ダート1800m)などのG1級重賞を制覇したOlympiaがいる。Olympiaはデュランダルの母系にも入っている種牡馬なので聞いた事がある方も多いだろう。
ナミノリゴリラ×キンシャサノキセキの組み合わせであればサンデーサイレンスの3×3となるわけだが、ナミノリゴリラもキンシャサノキセキも近親交配がきつい馬ではなく素直に両親の特徴を受け継いでくれるのが理想的だ。
距離適性は短いところでダート寄りの兼用馬といったところだろう。スピード性能と持続性能が高い血が多く、先行して粘り強い競馬を見せてくれそうだ。
■多くのファンの夢を乗せて
ナミノリゴリラの21は小田切オーナーの所有馬ではあるものの、ファンひとりひとりが馬名を考えることでデビュー前から大勢の人に応援される一頭となっている。一口馬主クラブの競走馬であれば1歳時からファンは多いかもしれないが、個人オーナーの所有馬では中々珍しい光景ではないだろうか。
小田切オーナーのファンを楽しませたいという思いは現役時の馬名に留まることなく、一頭を応援し続けることの楽しさを教えてくれる。そんなナミノリゴリラの21を今後も追いかけて引き続き記事にしていく。
なおTwitter上での馬名募集の締め切りは12/17(土)。是非皆さんの心こもった馬名を応募していただきたい。
牝系研究家・競馬ライター
牝系こそがサラブレッドの根幹であると考え、日夜サラブレッドファミリーの研究と最適な配合の追求を行う。競馬予想、血統解説、コラムなどを通じて競馬の魅力を多くの人に伝えることをモットーとしている。SPAIA競馬でも記事連載中。
—最近の私––
最近買ってよかったもの。次世代型猫用全自動トイレで時間と手間が格段に変わった。これまで猫が散らした砂を犬が食べてしまうことがあったが、これを導入してから清潔が保たれている。
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