
今回は宝塚記念で優勝したメイショウタバルを分析する記事を書いていきます。
よろしくお願いします!
*当記事は毎日杯優勝記事の追記再構成になります。
メイショウタバル
生年月日 2021年4月20日
調教師 石橋守 (栗東)
馬主 松本好雄
生産者 三嶋牧場
通算成績 11戦5勝 [5-0-0-6]
メイショウタバルの強さは、一言で言えば
基礎スピードの高さ
と言えるでしょう。
普通のゴルシ産駒はトモや関節がゆるく、ダラッと走ってしまう為、スタートダッシュが効かず、長距離でゆったり走れるレースでないと勝負になりません。
しかし、メイショウタバルは上体が高く、肩の形状などからピッチ走法のため、他のゴールドシップ産駒とは一線を画す走りをしています。
如実に現れているのがラップタイム。
毎日杯
12.6 – 23.8 – 35.2 – 47.3 – 59.6 – 1:11.6 – 1:23.2 – 1:34.1 – 1:46.0
12.6 – 11.2 – 11.4 – 12.1 – 12.3 – 12.0 – 11.6 – 10.9 – 11.9
追走力の差で楽に先頭に立つと、その後は11秒台をキープ。
中盤の12秒台も、コーナーのため緩めたわけではなく自然な減速。むしろこの区間もこのペースで走ったことに驚きました。
常に一定のリズムをキープして走り抜く、基礎スピードが速いと言えるでしょう。
言い換えると、非常に高レベルな耐久馬、または追走力が高いと言えます。
そして毎日杯の歴代タイムでも2位に入りました。
1位 1:43.9(良) シャフリヤール
2位 1:46.0(重) メイショウタバル
2位 1:46.0(良) ディープスカイ
4位 1:46.2(良) キズナ
5位 1:46.5(良) アルアイン
5位 1:46.5(良) ブラストワンピース
*2024年毎日杯終了当時。2025年毎日杯でファンダムが1:45.9(2位相当)のタイムで優勝
シャフリヤールは異次元のタイムですが、1:46前半で走ったこれらの馬は全てG1馬。
しかも、そんなタイムを重馬場で出しているタバルの異常性がよく分かることでしょう。
これを当時言ったときは「エアプ乙」「グリーンベルトを走っただけだろ」などと揶揄されましたが、無事にG1馬になることが出来ました。
続いて、その後勝った神戸新聞杯と宝塚記念のラップを見てみましょう。
神戸新聞杯
12.7 – 11.0 – 11.7 – 12.4 – 12.2 – 12.0 – 11.8 – 12.0 – 11.8 – 11.7 – 12.5
宝塚記念
12.4 – 11.0 – 11.4 – 12.1 – 12.2 – 12.2 – 11.9 – 11.9 – 11.8 – 11.7 – 12.5
平均ラップ12.0を刻み続ける驚異的な逃げ。
一般的な逃げとは、最初に飛ばして、中盤でペースダウンし、終盤で凌ぐというものです。
しかし、特にアメリカ気質な逃げ馬は異なる。
ペースの上げ下げを苦手とする馬が多く、逆に淡々としたペースで走ることを得意とする馬が多い。
タバルの母父フレンチデピュティ産駒のクロフネも、同じような産駒(ソダシなど)が多いのでイメージがしやすいでしょう。
ハイペースの大逃げや、スローペースのタメ逃げではない、後続の体力を削ぎ落とすミドルハイ逃げ。
こういったタイプの強みは、このミドルハイペースでレースを作れたときに驚異的な強さを発揮します。
日本競馬は、スローペースからのヨーイドンに特化した馬作りをしているため、道中はゆったりと走りたい。
例えば、1000mを64秒で通過できれば、ラスト3ハロンで32秒の足が使えるということ。
しかし、馬は集団で走りたがる動物なので、1頭が行ってしまうと、ペースが速くても、ゆっくり行きたくても、ついて行ってしまう。
そうなると、最後方でも62秒で1000mを通過せざるを得ず、ラスト3ハロンが34.5秒かかり、さらに、道中に体力を使ってしまっているので、仕掛け所が遅くなるので、走破タイムはさらに遅くなる。
つまりタバルのような馬がいた場合、道中のペースが上がり、付いて行かないと差し届かないが、ついていくとバテてしまう。
宝塚記念でも、番手につけたベラジオオペラ方が先にバテて失速。
それでも2着に来たことで流石の実力を見せたものの、他の先行馬は軒並み惨敗しました。

3~6着まで人気薄の追い込み馬で占められたので、どのようなレースの質になったのか理解できるでしょう。
抜群のスタミナを持った一部の逃げ馬だけがなし得る、逃げ馬の完成形の一つが、タバルのミドルハイ逃げです。
タバルは追走力が速い…言い換えれば、ジョギングスピードが速い馬です。
そのため、一般的な逃げ馬の常識で照らし合わせれば、ラップペースが速い。または、少しでも促すとスパートのようなスピードが出てしまう。
そのため、押さず、抑えず、ペースを一定に保つ必要があります。
タバルが圧勝した3つの重賞はいずれも淡々とペースを守れており、逆に惨敗したレースは抑えたり促して暴走しています。
その惨敗を見て「タバルは暴走機関車」「気難しい」等と言われたこともありますが、違います。
ペースを守りさえすれば、強い馬なんです。
そしてそのペースを可能にするのが、人類史上最高峰の体内時計を持つレジェンド武豊。
同じように絶妙な逃げタイムで逃げ切った大阪杯ジャックドールや、5着でしたがダービーサトノシャイニングのように、武豊騎手が逃げてペースを作ると馬の実力が最大限発揮されるレースになりやすい。
初コンビのドバイターフも5着でしたが、世界最強のロマンチックウォリアーにマークされ続けましたが、そのロマンチックウォリアーは最後の最後で垂れてソウルラッシュに差された。
もちろんソウルラッシュが強かったのですが、タバルのペースに付き合ったことも敗因の1つでしょう。
これは父の祖父メジロマックイーンが得意としていた戦法で、圧倒的強者のマックイーンが圧倒的スタミナで速いペースを作り、全馬がバテた中1頭だけ突き抜ける。
武豊騎手とのコンビで、メジロマックイーンが宝塚記念で復活しました。
重馬場
「ゴールドシップ産駒は重馬場が得意」という人が多くいます。
競馬専門紙の記者でも言っている人がいます。
しかし、ゴルシファンからすると重馬場得意説や中山得意説が流れるたびにうんざりします。
イメージだけで喋るとそうなってしまうんでしょう。
タバルも「ゴールドシップ産駒だから重馬場で走った」と言っている方が散見されましたが、タバルは特殊です。
基本的に、ゴールドシップ産駒は蹄が大きいと緩いという特徴があります。
・蹄の大きさは荒れた馬場でもしっかりと地面を踏みしめることができる反面、面積が広いため濡れた馬場では滑ってしまいます。
・緩いため、荒れ馬場はちょうどいいクッションになりますが、ぬかるむような馬場では踏ん張れません。
つまり、
◎ 荒れてタイムがかかる馬場
✕ 濡れた馬場
ということになります。
一般的なゴルシ産駒は大跳びでドッスンドッスン走るので、濡れた路面二苦労します。
一方、タバルにおいては前脚の掻き込みが強い(ピッチ走法)です。
これは後述する古いアメリカの血が良く反映されていると思います。
掻き込みが強くなることで濡れた馬場でも自らスパイクを打ち込むような走りになるので滑らなくなり、余計な力を使わなくても走れます。
そのため、ピッチ走法は雨馬場に強いため、様々な要素がタバルに向いた一戦だったと思います。
血統

タバルの場合は、大枠で言えばゴールドシップニックスである4つを持っています。
・ヘイロー≒レッドゴッドの脚捌きの良さ
・トムフール的機動力(ニジンスキー母≒レッドゴッド母)
・ボルキロ・ナスキロ(ボールドルーラーorナスルーラ×プリンスキロ)
・Speak John(ロージズインメイ・フレンチデピュティの母父系)
4つと言いましたが、本質的には上2つは同じようなものです。
脚捌きの良さ
ゴールドシップ産駒は既に柔らかさ≒緩さを持っているので、体質を絞める方向の馬が必要になります。
そこで難しいのが、硬くしたらダメで、筋肉を増やしてもダメ。
わかりやすく言うと、ダート的な硬さを持った母父との相性は全く良くありませんし、柔らかくても筋肉ムキムキなストームキャットも相性が悪いです。
そのため、”脚捌きが良く、身体能力の高い” 古いアメリカ的な血が必要になります。
その古いアメリカの血を全て1頭に凝縮したのがバックパサー。

ゴールドシップにはバックパサー的な血統がニックスです。
過去記事でめちゃくちゃ書いていますので、バックナンバー
をご覧ください。
バックパサー – サラブレッド研究所 / Thoroughbred Lab.sarala6.com
わかりやすく言うと、メジロアサマと近い血統をしています。
ラトロワンヌを始めとした古いアメリカの名血が凝縮されているメジロアサマと、バックパサーとヘイロー・レッドゴッド・ニジンスキー。
ぜひお時間のある方は、この馬たちの血統表を見比べてみてください。
血統の面白さの一端に触れることができるはずです。
タバルは母母ダンシングハピネスにニジンスキーとレッドゴッドを持っており、さらに、ヘイローも内包しています。
おそらくタバルのピッチ走法はこのアメリカンな部分の良さが出てきたのでしょう。
特にゴール前のフォームはニジンスキーやダンスインザダークを彷彿とさせる美しいフォームで走っていました。
血統の影響を非常に感じる良い配合ですね。
ボルキロ
ボルキロとは、ボールドルーラーとプリンスキロの組み合わせを持った馬のことで、ワンペース適性が増強されます。
母父フレンチデピュティは配合によってはメイショウベルーガやエイシンデピュティのような芝で良い脚を使う馬も出しました。
その要因こそが、フレンチデピュティの牝系に入っているボールドルーラーとプリンスキロの組み合わせです。
また、ボールドルーラーの父ナスルーラとプリンスキロの組み合わせは5代母サイレージの父も(ほぼ同様の血統を)持っています。
柔らかさとスピードを増強する要素としてナスルーラ×プリンスキロが有名ですが、ナスルーラ×カウントフリーㇳという組み合わせもあります。タバルはクリスタルグリッターズとサイレージの中に持っています。
ナスルーラ×プリンスキロ×カウントフリートの構成はナスキロフリートとも言われ、非常に大きな爆発力を期待させます。
メイショウブレゲ
実は、タバルによく似た血統の馬がいます。
それが、メイショウブレゲ(万葉ステークス1着)。

2代母父ダンスインザダークはタバルと全く同じ。
3代母父ヴァイスリージェントはフレンチデピュティの2代父。
4代母父ゴーンウエストはナスキロ血統。
母父パイロはナスキロ要素を多く含むもののピッチ的な走りが武器。
ということで、見れば見るほど実は似ているブレゲとタバルであるし、走っている理由がよくわかります。
こういう要素を発見できるのも血統を見る楽しさですね。
Speak John
そして、最近私が提唱している血統の紹介。
ゴールドシップと抜群のニックスを誇るロージズインメイ。
そして、実はロージズインメイに匹敵するニックスを持っているのが、クロフネの一族。
クロフネ – フレンチデピュティ
- ウッドシップ一族…母父クロフネ
- オルノア・ホワイトターフ…母父クロフネ
- レジェンドシップ…母父クロフネ
- プリュムドール …母父フレンチデピュティ
ロージズインメイとクロフネ – フレンチデピュティの共通点は、Speak John。
Speak Johnは、フレンチデピュティの母父父、ロージズインメイの母父にあたります。

Speak Johnは現代競馬ではスタミナの宝庫。
更にアメリカのパワーやフランスのしなやかさも兼ね備えており、ゴールドシップ産駒らしさを強調します。
かなり難しいので説明は省きますが、Speak Johnはゴールドシップに必要な血統の一つであり、かなりのウエイトを占めます。
まとめ
ゴールドシップ産駒の中では非常に異質な存在。
抜群の先行力でハイラップを刻み、後続を突き放す。
これは、ゴールドシップというよりも、メジロマックイーンを意識してしまう馬だと感じております。
メジロマックイーンはキレこそないものの、圧倒的な追走力で後続の脚を終わらせることのできるスピード馬でした。
(メジロマックイーン 京都大賞典を見てください)
そのため、狙うべきは東京のG1というより、タフな条件のレース。
菊花賞、有馬記念、宝塚記念などでしょう。
2024年毎日杯後の私の短評
と、書いたのが昨年の春。
まさに思った通りの競馬で、思った以上の走りを見せてくれました。
感動的なレースを見せてくれたタバル。
武豊騎手・石橋守調教師・松本オーナー…
この三人を見ると、オールドファンとしてはどうしてもメイショウサムソンを思い出してしまいます。
物議を醸した乗り替わり劇でしたが、そのつながりが、約20年後にこうやって花開く。
血統はつながっていくと言われますが、こうやって人の縁もつながっていくのですね。
私個人としては「競馬はドラマ」と言う言葉はあまり好きではありませんが、色々な思いをはせてしまうレースでした。
首の高いピッチ走法といえばメジロパーマー。
パーマーは遅咲きのステイヤーでしたが、宝塚記念を勝った年に有馬記念も逃げ切り勝利を飾りました。
私は、今年の冬も言うでしょう。
「あなたの、そして私の夢が走ります。
あなたの夢はどの馬ですか?
私の夢はメイショウタバルです。」
告知
サララボ代表のジェイが馬の見方や競馬を勉強する過程で、大変お世話になったオーストラリアのNSW州の中條大輝調教師と、馬の見方についてや 競馬について勉強していく会員制コミュニティ「JJ Racing Club」をDMMオンラインサロンさんにて運営中です。
これまで3度サロンメンバーの皆様とセリに参加しており、モアナとターボ、さらに大狩部牧場さんとコラボでサニーという素晴らしい3頭落札できました。
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共有オーナーは1/40口から募集しており月の維持費は放牧中が月4000円程度。
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M石土井
ゴルシ産駒研究者
一口馬主を京都サラブレッド、YGG、広尾、DMM、ノルマンディーなどで楽しんでいる、ゴルシ産駒研究者。noteにてゴルシ産駒にまつわる投稿を行っている。血統分析に重きを置くスタイルで、代表出資馬はドライスタウトやグランベルナデット。ゴールドシップ産駒ではオルノアやブルーローズシップなどに出資している。
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