【書籍レビュー】3×4も実は危険!? 競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門から考察する byジェイ

ジェイ
ジェイ
どうも、ジェイです。
今回は競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門 (星海社新書) についてレビューしていきます。
これまでの血統に対する考え方が変わる一冊でした。

「競馬サイエンス 生物学・遺伝学に基づくサラブレッドの血統入門」とは

基本情報

定価:1485円
著者:堀田 茂
発行:星海社
発売日:2023年5月24日

概要

生物学・遺伝学的観点から説明する競走馬の血統入門書

競走馬の血統は、競馬の重要なファクターの1つです。しかし現状では、血統に関する各種言説に、生物学の基本から逸脱しているものが多々見受けられます。

「血統」と「遺伝」は表裏一体です。切り離すことはできません。

ですが遺伝についてはわかりやすく説明したり、理解することが難しく、血統を語る際にその存在が忘れられてしまっています。本書は、生物学・遺伝学的観点から説明する競走馬の血統入門書です。

「遺伝子」や「ミトコンドリア」「メンデルの法則」といった中学校の理科の授業で習った基礎から最新の研究論文まで、一緒に血統と遺伝を学びましょう。

※(引用:Amazon本書紹介欄より)

ジェイの感想 

エッジの効いた文章・考察や、現在のメディア・生産界に対する批判的な内容も多いですが、こういった生物学的・遺伝学的な観点から血統を考えるということはほぼなかったので、非常に貴重な経験になりました。

馬主目線というよりは生産やブリーダーに向けての本という感じはしますがね。

特にインクロス(インブリード)の考え方については、これまで自分には知識が欠けていた部分が多々あり、価値観が変わる1冊でした。
父・母どちらかに同居しているインクロスと、父と母をまたぐインクロスの違いを私は恥ずかしながら認識しておりませんでした。

一方で、最近私が実践している「この血統のこの要素が産駒の馬体や動きに伝わっているのか?」と考えていくことは遺伝学的視点で考えても間違っていなかったんだなと思いましたし、一口馬主初年度から大事にしているボトムラインを大事にする考え方は間違っていなかったんだなと背中を押された気もしました。

私は高校まで理系専攻で生物は履修していましたが、大人になってから生物の内容を学び直す機会はなく、ほとんどの知識は忘れかけていました。

生物学や遺伝子学と聞くとアレルギー反応がある方もいるでしょうし、正直とっつきやすい内容ではないので少し気合を入れて読む必要があります。

それでも、メンデルの法則や染色体の組み合わせによりどのように遺伝子が遺伝していくのか、ミトコンドリアの働きやインクロスの危険性などなるべく平易な言葉で説明しようとされているのは伝わってくる本でした。

予備知識はほとんどない私でも気になるページは付箋を貼って繰り返し読み込むことで「8割程度は筆者の主張を理解できたかな?」と思います。

アデノシン三リン酸などの用語を久しぶりに聞いて「こんなのあったな〜」と懐かしい気持ちにもなりましたね(笑)

私なりに解釈した主な筆者の主張としては

①インクロスの危険性
②生産界への知識普及の必要性
③母系の重要性

の3点かなと思います。

このあたりについて、あまり考えたことがなかったという方は安価な新書なのでとりあえず読んでみることをおすすめします。

特に血統派の方にはぜひ読んでいただきたいですね。

血統派の世界で普段当たり前に用いられている手法や言葉に対して「こんな考え方もあるのか!」という発見になると思います。

特に時間がない方は1~4章の冒頭あたりまでを読むだけでも、十分面白いと思います。




勉強になったポイント

今回の本で私が特に勉強になったと思うポイントを2つだけ紹介させていただきます。

あまり列挙すると、ネタバレだと怒られてしまいそうなので(笑)

①3×4インクロス神話について

これはまさに、私もそうだったなという話です。

血統を考える上で”奇跡の血量”と言われる3×4=18.75%のインクロス。

これが、3×3=25%となると途端に、インクロスがきついから体質的に心配だ、気性が心配だというコメントが飛び交います。

私自身も同様の内容は過去に記事や動画でも何度も言及してきた記憶があります。

しかし、遺伝学的に遺伝病発症率を考えてみると…

・4×4のインブリード→約0.39%
・3×4のインブリード→約0.78%
・3×3のインブリード→約1.56%
・2×3のインブリード→約3.13%

こうしてみるとインブリードが濃くなるほど当然、遺伝病発症率は上がるわけなのですが、特に3×4と3×3を隔てる大きな壁があるわけではないんですよね。

この計算式についてや遺伝病発症のメカニズムについては長いので今回のレビュー記事では省略します、気になる方は本を買って読んでみてください(笑)

発症率が1%を超えてくるのでなんとなく出現率が多い感じがして、3×3は危険という風潮が生まれたのでしょうか?

逆に3×4は安全だという風潮が競馬サークル内にはありますが、リスクは一定含んでいるということが言えると思います。

馬主目線で考えるとそれをわかった上で許容するのと、わからずに馬を選ぶのでは馬選びの質は変わってくるのではないかと思います。

②ミトコンドリアの遺伝について

ミトコンドリアとは細胞内にある小器官で、取り込んだ酸素を用いて体内でエネルギーの分配を行う物質であるアデノシン三リン酸(ATP)を合成するものです。

このミトコンドリアは著者によると母性遺伝、つまり母親からのみ授かるものだそうです。

種牡馬を蔑ろにして良いという意味ではありませんが、お母さんや母系というのは非常に重要だということが書かれていました。

私も母系を詳しく分析しているほどの”通”ではありませんが、募集馬をみる時は直近3世代のファミリーの競走成績は必ずチェックをしてから出資をするようにしています。

それだけ、肌感覚的に繁殖成績というものの与える影響は大きいと思っていましたし、実際同じ母から複数の活躍馬が出るというのも何度も目にしてきました。

ここは肌感覚的に感じていた部分が遺伝学的な部分からも補完されたなと感じました。

最近の例で言うと、ソダシやメイケイエールでお馴染みのシラユキヒメ一族が大活躍していますね。

ただ”母性遺伝するなら母系が同じなら全てが同じ型を持っているか?”と言われるとここはそうでもないようです。

原則としてはそうらしいのですが、ミトコンドリアの遺伝子は通常の核DNAの遺伝子よりも変異スピードが速く、変異が度々起こるようです。

そのため「枝分かれするファミリーでこっちの枝は活躍馬があまり出ていないけど、こっちの枝は活躍馬多数」といった事象が発生した場合は、このミトコンドリア遺伝子の変異が起こったと理解するということでした。

確かに「4代母〜3代母までは産駒が重賞馬多数なのに、2代母以降は成績が悪いなあ〜。はとこのラインは活躍馬がたくさんで続けているのに…。」という血統表を目にすることは、よくあることですよね。

疑問に思ったポイント

勉強になる点が多かった一方で、疑問に思ったポイントもありました。

それはインクロスの危険性を指摘する部分で、本当はアウトクロス=異系配合こそがいいという旨の主張です。

私の読解力や理解力不足でなければ、この本の主題の1つはインクロスによる「良い効果」ばかりをメディアも生産者も取り上げていて、ヨーロッパではガリレオばかり、日本ではサンデーサイレンスばかりと血統の多様性がなくなってい危険性や不可逆性などに対する問題提起が書かれていました。

これは「遺伝病にならない健康的な馬づくりをしよう」というマクロの視点で考えれば確かにそうだと思いますし、遺伝的多様性が失われるリスクは一定理解したつもりです。

ただ、ミクロでみた時に「本当にそうだろうか?」と思うポイントがあります。

それは「本当にアウトクロスの馬の方が競走能力が高いのだろうか?」という点です。

健康な馬と競走能力の高い馬は、必ずしもイコールで結ばれないと私は思います。

本書の中では3×4インクロスで活躍馬が多いのはそもそもこのクロスを持つ馬の絶対数が多いからで、インクロスによる効果かは怪しい、相関関係はあるのだろうか?という旨が書かれています。

これは確かにそうなのですが、これはインクロスよりアウトクロスの方が競走馬として優れている根拠にはなっていないと私は思います。

また、本書ではサンデーサイレンス産駒のG1馬の57%(25頭)が5代アウトクロスであると述べられていますが、これを論ずるならサンデーサイレンス産駒のインブリード馬とアウトブリード馬の総数を出して、それぞれの総数に対するG1馬の比率を出すべきだと私は思います。

あとそもそもG1馬という括りで見ると、サンプル不足感も否めないですね。

アウトクロスの優位性を立証するならインクロスを持つ馬と持たない馬を抽出し、もう少し大きな母集団を見比べて勝ち上がり率や重賞馬率などの指標を比べることで、統計的優位差があるかどうかをみる必要があると思います。

※この部分に関して著者の堀田氏から反応をいただき、アウトクロスが競走能力が優れるとまで書いたつもりの文章ではなかったがそう読めてしまう部分があった、旨のコメントをいただきました。この件については堀田氏の連載コラムで取り上げられる可能性もあるそうです。私の読解力不足な部分もあったかもしれませんが勇気を持って切り込んだことで議論が展開し、より多くの人によりわかりやすく堀田氏の考え方が伝わっていけばと生意気ながら思った所存です。




アウトブリードの方が強い?

疑問を呈してるだけでは建設的ではありませんので、私が実際に主要種牡馬のインブリード馬とアウトブリード馬の勝ち上がり率を調べてみました。

インブリードは父×母の血統の中でインクロスが1つ以上できることを判定基準としています。

判定には5代血統表を使っておりますので、6代血統以降のインブリードは無視しております。

恣意的な抽出を避けるため、2022年リーディングサイアーTOP10について調べてみました。

種牡馬によっては頭数が少なく極端な数字が出ているものもありますのでお気をつけください。(成績は中央馬のみ)

1位 ディープインパクト インブリード 勝ち上がり62.9%(420)

            アウトブリード 勝ち上がり75.3%(97)★

2位 ロードカナロア   インブリード 勝ち上がり40.4%(712)

            アウトブリード 勝ち上がり42.7%(124)★

3位 ハーツクライ    インブリード 勝ち上がり47.5%(455)★

            アウトブリード 勝ち上がり43.4%(83)

4位 キズナ        インブリード 勝ち上がり46.1%(447)

            アウトブリード 勝ち上がり55.1%(49)★

5位 ドゥラメンテ     インブリード 勝ち上がり39.1%(384)

            アウトブリード 勝ち上がり44.9%(78)★

6位 キングカメハメハ  インブリード 勝ち上がり52.9%(223)★

            アウトブリード 勝ち上がり42.3%(52)

7位 ルーラーシップ    インブリード 勝ち上がり37.9%(552)★

            アウトブリード 勝ち上がり30.6%(124)

8位 モーリス       インブリード 勝ち上がり38.4%(430)

            アウトブリード 勝ち上がり50.0%(6)★

9位 エピファネイア   インブリード 勝ち上がり40.1%(529)★

            アウトブリード 勝ち上がり32.0%(25)

10位 ハービンジャー   インブリード 勝ち上がり34.8%(362)★

            アウトブリード 勝ち上がり24.2%(149)

インブリードの方が勝ち上がり率が優勢な馬が5頭。

アウトブリードの方が勝ち上がり率が優勢な馬が5頭とちょうどイーブンになりました。

この結果を持って、どちらの方が優れているとはちょっと言いづらい結果になりましたね(笑)

ただ、この表を作っていて思ったのは、5代アウトブリードの馬って本当にサンプル数が少ないんだなということです。

元々の主題とは離れますが、遺伝的多様性の低下は本当に深刻なんだなと、自分の手を動かしてみて改めて気付かされました。




おわりに

アウトブリードの方が競走能力が高いのか、インブリードの方が高いのかは結局わからずじまいというモヤモヤ感は残りましたが、こういったことを調べるきっかけを与えてくれたことには感謝です。

また、この本を読んでこれまで生物学や遺伝学を無視した考察をしてしまっていたなと反省させられる部分がありました。

発信者の端くれとして、こういった気づきを与えてくれる本書はとても有意義な本でした。

皆さんにもぜひ読んでみて、自分なりの考えを深めるきっかけや新たな視点を得るきっかけになってくれればと思います。


ジェイ

現役地方&海外馬主・競馬ライター

登録者4500人超え&累計再生250万回超えの一口馬主YouTuber。豪州競馬会員制コミュニティJJ Racing Club 共同代表。社会人1年目から一口馬主を始め、キャロット・シルク・ノルマン・ロード・DMMバヌーシーの5クラブに入会。地方個人共有とRSS や中條厩舎の豪州共有に加え北米MRHでマイクロシェアを行う。血統スタッツや馬体・歩様を重視していて代表馬はトゥルーフェアリー、ロードヴァレンチ、ミスティックロア等。

—最近の私–

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